映画「Ben Is Back」気になる海外メディアの評価とは?

オピオイド依存症がもたらすクリスマスの苦悩

この映画『Ben Is Back』のポスターには、1人の女性と彼女の足元にしがみつく年下と思しき男性がフィーチャーされていて、最初の正直な印象を言えば、何か生臭いなぁ、というものでした。

作品の中見をちょっと調べてみると、現在アメリカでも社会問題化しているオピオイド系鎮痛剤への依存症をモチーフにした、母と息子、そして家族のドラマだという事が分かってきて、これまた、あの生臭さは意図的に演出されたものだったのだ、という事が判明。

加えて、母親役には、あのジュリア・ロバーツが起用されているという事て、映画としても十分に興味深いものと言えるのが、この『Ben Is Back』だと分かります。

今回は、そんな作品の評価をご紹介します。

オピオイド系鎮痛剤

オピオイド系鎮痛剤には、麻薬系と非麻薬系が有り、日本でも多くの薬剤やタイプが医療用に認可されています。

中枢神経や末梢神経にあるオピオイド受容体に作用し、高い鎮痛効果を表す治療薬ですが、効果と副作用について半端な理解の下に誤解が広がっているのも事実だそうです。

もし、本当にこの鎮痛剤が必要だと思われる場合は、患者さん本人(できれば、その周囲の誰かと共に)が医師と十分に話し合い、治療方針から投薬の中止までの過程を理解した上で、使うかどうかを判断される事をお勧めします。

さて、医療薬として有用な反面、米国などでは、オピオイド系鎮痛剤の使用が元で麻薬依存に陥るケースが多いのもこれまた事実だと言います。

オピオイドの投薬を止めた時に出現する(事がある)退薬症状には、筋肉の痛みや痙攣,疝痛,下痢,不眠,不安,焦燥感,発汗,流涙,鼻水,あくび,悪寒,立毛筋の収縮などがあります。しかし、通常は2,3日間の内に自然に消えて行くそうです。

ただ、この段階で担当の医師がしっかりケアをしないために、依存症に陥ってしまうケースも多い様で、現代のアメリカには200万人に上るオピオイド依存症患者がいるとも言われています。

やっかいなのは、スポーツで負ったケガの痛みを抑える名目で、医者がオピオイドを処方したまま、無作為に長期にわたって投薬しつづけるケースでしょう。

この映画でも、それを扱っている訳ですが、仲間に対してイキがったり、精神的にハイになりたいから薬物に手をだしたのではなく、通常のQOLを求めて受けた正当な治療が始まりだと言う点が、とても恐ろしく感じさせる部分です。

予告編と作品基本情報

  • タイトル:
    • Ben Is Back
    • ベン・イズ・バック
  • ジャンル:
    • ドラマ / 犯罪
  • 日本公開:
    • 未定
  • 制作:
    • 2018年
    • Black Bear Pictures
    • 30West
    • Color Force
  • 監督:
    • ピーター・ヘッジズ
  • 脚本:
    • ピーター・ヘッジズ
  • プロデューサー:
    • ダン・フリードキン
    • ベン・スティルマン
    • ミッキー・リッデル
    • ピーター・ヘッジズ
    • マイケル・ハイムラー…他
  • 出演:
    • ジュリア・ロバーツ
    • ルーカス・ヘッジズ
    • キャスリン・ニュートン
    • コートニー・B・ヴァンス
    • デイビット・ザルディバー…他

あらすじ

ホリー・バーンズ(ジュリア・ロバーツ)は、合衆国ニューヨーク州のヨンカーズの土地で、夫ニール(コートニー・B・ヴァンス)と供に家庭を守りながら暮らしています。

そんなホリー、この年のクリスマスイブに車を運転している所、予想していなかった人物に遭遇しました。19歳になる息子のベン(ルーカス・ヘッジズ)が、道端をとぼとぼと歩いているではありませんか。

実はベンは、ずっと以前に医者から処方された鎮痛剤が元となり、薬物依存症に陥っています。だから、本来であれば、ずっと遠くのリハビリテーション施設にいなければならないはずなのです。

ベンによれば、施設のカウンセラーが祝日を家族と共に過ごす事は、ベンの心の回復には良い効果があるはずだと、クリスマスの1日だけ帰宅を許してくれたのだとの事。

一度は、酷く驚かされたホリーでしたが、実の息子がクリスマスに帰って来た事を喜ばない母親はいません。熱く彼を抱擁し、絶対に1人で行動しない事を約束させ、ベンを家へと連れて帰りました。

この一家には、ホリーとニールそれぞれの連れ子がいます。ベンの妹でホリーの娘であるアイヴィー(キャスリン・ニュートン)、そして、ニールの子供であるレイシー(ミア・ファウラー)とリアム(ジャカリ・フレイザー)達です。

まだ幼いレイシーとリアムは、ベンの帰宅を素直に喜んでいる様ですが、彼が原因で辛い思いをした記憶のあるアイヴィーは、露骨に不安感を口にします。

そして、教会でのクリスマス礼拝を終えた夕方、その不安感が現実となりました。ホリー達の一家が留守の間に、誰かが家に押し入って彼らの愛犬を連れ去ってしまったのです。

ベンは、おそらく昔付き合っていた悪い奴らの仕業だと言います。

ベンを車に乗せ、愛犬を探しに夜の街へと向かったホリー。そして、アイヴィーが予想した通りの問題に直面します。弁は、複雑な犯罪にベンが巻き込まれている様なのです。

今、ホリーにとって、最悪のクリスマスイヴが始まろうとしていました・・・

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映画『Ben Is Back』気になる現地メディアの評価は?

あのドナルド・トランプ大統領からも、「国家的緊急課題である」という発言を引き出す程、深刻な社会問題となっているのが米国のオピオイド依存です。

映画の1つの描き方としては(これも、じきに登場するかも知れませんが)、汚い製薬会社と政治家が、私腹を肥やすために結託し世の中に薬物乱用を広めている、という政治スリラー的なものも考えられるテーマではあります。

しかし、今回のこの作品はちょっと違って、我々にもっと身近な家族と依存症の問題を中心に置いているものとなっています。

そんな作品について、各メディアが寄せた評価を4つ程、見て行くことにいたしましょう。

評価1:映画としての売り込みを忘れてはいないものの・・・

まずは、The Guardianが寄せた評価をご紹介します。

当然、商業映画としては、ストーリーの起承転結を練り上げて観客の興味を引く様にしなければなりません。

ポスター写真などが与える印象は、ともすればお涙頂戴の湿ったストーリーに感じられるものですが、実際にはむしろ、緊張感と不安感のある、犯罪スリラーの要素も与えられています。

そして、そういった構成手法は、各メディアの批評家の厳しい批評にさらされる事となる訳ですが、ここでは、あまり肯定的にとらえられていない様です。

【The Guardian】

Julia Roberts can’t save middling addiction drama

「ジュリア・ロバーツを起用しながらも平均レベルに留まった依存症ドラマ」

It’s an intriguing set-up and writer-director Peter Hedges’ decision to restrict the action of the film to a 24-hour period, devoid of flashbacks, helps to increase tension and provides him with a difficult challenge as a storyteller.

「この映画の初めの設定は興味深いもので、監督兼脚本のピーター・ヘッジズは、それを、フラッシュバックなどに頼らず24時間の間に押し込むという工夫をしている。その事は、緊張感を高める役割を果たしてはいるが、同時に、物語をつづる上での難しい挑戦ともなっているだろう。」

As events progress, Hedges’ script becomes sloppier with distractingly forced conflicts and the film makes an uneasy lurch into the thriller genre, as Holly and Ben find themselves heading into the local underworld. It’s a shame as investment soon turns into disbelief as Hedges betrays his characters to progress his story.

「ヘッジズ監督の書いたこの脚本は、そこでの事態が進展して行くと共に、無理やり争い事を持ち出して、白けさせる様な感傷的なものに変わって行く。さらには、ホリーとベンの2人が街の裏社会を目指して行く段では、不安感を煽るスリラー仕立てへと傾いて行く。物語を進める目的だけで、自分の生み出したキャラクター達を裏切るこう言った態度は、すぐに当初の着想から真実味を失わせ、作品内の実に残念な点となっているだろう。」

Roberts is given a gratingly on-the-nose freakout scene at a drive-in pharmacy to really hammer the point home. Her range is as dependably varied as we would expect but, as also seen in another freakout scene, this time in a police station, Hedges is clearly grooming her for awards attention and again it adds to an overcooked feeling that only increases as the film hurtles to the end.

「ジュリア・ロバーツには、ドライブイン型薬局で真剣に話の筋を通そうと感情的に取り乱す場面が有る。彼女は、観客が想定する通りに、様々な場面を確実に演じて見せているだろう。それでも、彼女が警察署で感情的になる別のシーンは、監督が映画賞を意識して飾った事が明らかに見てとれる。そこでは、映画自体が結末へ急ぐ所に過剰な感情描写を加えるだけとなってしまうのだ。」

評価2:愛情と感情のすべてを表現しきるジュリア・ロバーツ

2つめは、Chicago Tribuneの評価です。

これは、問題を抱えた息子をエスコートするためなら、およそ不慣れな夜の街へ足を踏み入れる事もいとわない、1人の母親のストーリーです。

その母親役によって、物語が嘘っぽくも軽率にもなり得るのが、こういったプロットの映画と言えます。

ここでは、その役目をになったジュリア・ロバーツが提供した演技について、肯定的な批評が書かれています。

【Chicago Tribune】

Family addiction drama lets Julia Roberts go full-on ‘Steel Magnolias

「ジュリア・ロバーツによる、”マグノリアの花たち”モードが全開の、依存症に苦しむ家族のドラマ」

In its emotional peaks “Ben is Back,” the new drama from writer-director Peter Hedges, affords Julia Roberts the chance to go full-on “Steel Magnolias” — delivering short, sudden outbursts of desperation, anger and tough love.

「ピーター・ヘッジズが、監督および脚本を手掛けて制作した、新作映画“Ben is Back”は、ジュリア・ロバーツに”マグノリアの花たち”を再現する場所を提供している。短い瞬間の間に、必死さ、怒り、そして強い愛情などを噴出させるのだ。」

This addiction drama is primarily a showcase for its superb leading performers, and in its compressed time frame (24 hours around Christmas) it feels like a well-made play more than a fully amplified feature film. The acting is enough, though.

「この依存症ドラマは、優れた主役俳優達のショーケースとして開始される。それは圧縮した時間(クリスマス前後の24時間)に展開しており、十分に練られた劇場映画というより、むしろ、良く出来た演劇にも感じさせるものだ。とは言え、十分な演技を伴なって作られている。」

Playing a loving woman with a full dose of self-awareness as well as a capacity for self-deception, Roberts brings the fireworks when called for. No surprise there. What’s become increasingly clear in recent years, however, is just how much this actress can find in between the peaks. She’s more and more comfortable doing less and less. And everything registers with her, every second.

「完璧な自意識と、同時に自己欺瞞という性格を持つ、愛情深い女性を演じている、ここでのロバーツは、必要とあらば、演技的な花火を打ち上げてみせる。そしてそれも、驚くには値しない。この女優が感情的なピークの間においても表現力を持つという事は、ここ数年でより明確に分かってきている事なのだ。ここの所の彼女は、よりシンプルな演技の中に境地を見出してきている。そして、毎秒の様に全てを印象付ける力がある役者なのだ。」

評価3:効果的な構成と演出

3つめは、San Francisco Chronicleが寄せた評価です。

今どき、薬物の過剰摂取はなかなかタッチーな題材だと思いますが、それでもまだ、描き方に工夫の余地が残っているはずです。

たとえば、社会的な問題であるドラッグ中毒を、家族の形態や愛情の問題から目をそらさないまま、ドラマ性も与えて描写してみせた、というのが、この映画から伝わる印象の1つです。

そして、そこには十分に見るべきものが有るというのが、ここでの批評になっています。

【San Francisco Chronicle】

‘Ben Is Back,’ with Julia Roberts and Lucas Hedges, avoids addiction-movie traps

「ジュリア・ロバーツとルーカス・ヘッジズ共演の“Ben Is Back”は、依存症ストーリー映画の落とし穴を上手く回避した。」

now comes writer-director Peter Hedges to show why people give him money to make movies. He has cracked it. He has come up with a way to make an addiction film that’s moving and effective, one that not only has the capacity to surprise, but that also keeps surprising. Almost every 10 minutes something unexpected happens that turns the story in an arresting new direction, and yet “Ben Is Back” never once feels manipulated or mechanical.

「監督と脚本家を務めるピーター・ヘッジズは、今回、彼の映画に人々が出資する理由を証明してみせたと言えるだろう。彼は、依存症を扱う映画の殻を打ち砕き、効果的に人の心を揺さぶる作品に仕上げる方法を編み出したのだ。それは、ちょっと新鮮だと言うのみならず、その驚きを持続させる力も併せ持つ。ほぼ10分おき位に、予想を裏切る出来事が用意されており、ストーリーは驚きの方向転換を見せる。そうであっても、感情に操作的だとか機械的だとか、決して感じさせないのが、この映画“Ben Is Back”なのだ。」

The director does a nice job of directing his son. He does not give into sentiment, does not try to force us to love this young man,

「そして、この監督は自身の息子を演出する事にも、良い手腕を見せている。彼は、この青年に観客が愛着を感じる様に仕向けさせたいと言った様な、自身の感情に流される事もないのだ。」

And as a consequence of his not forcing us, of his allowing us to approach the central character at our own speed, we end up caring a lot

「そして、押し付けがましさも見られないこの手法は、結果的に、主役キャラクターに観客が自分のペースで近づく余地を残していて、最終的には多くの心情を勝ち取る事になって行く。」

On the surface, there’s youthful energy that translates into an optimistic air. But in quiet moments, we notice in Ben’s eyes shame, embarrassment, degradation and guilt – the four horsemen of self-loathing.

「ベンには、表面的には楽観的ともとれる若々しいエネルギーが有る。それでも沈黙の場面においては、その瞳の中には恥辱、困惑、退廃と罪悪感と言った自己嫌悪の4大悪感情が伺えるはずだ。」

評価4:悪夢の様なクリスマスから息子を救おうとする母親

最後は、USA TODAYが、この作品に与えた評価をご紹介します。

こちらでも、クリスマスという特別な時期を、独特なテーマの中に織り込んだこの映画において、主演のジュリア・ロバーツが果たした役割を好評価する内容となっています。

【USA TODAY】

Julia Roberts does her finest work in years as the loving mom in ‘Ben Is Back’

「“Ben Is Back”では、ここ数年でも最も素敵に愛情深い母親を演じるなジュリア・ロバーツが見られるだろう。」

“Ben Is Back” is a deceptively fitting entry in the holiday movie season, one that combines the nation’s opioid crisis, a tweaked Christmas movie template, and the gift that keeps on giving, Julia Roberts.

「この“Ben Is Back”は、意外な形で、ホリデー映画シーズンにフィットしている一作である。それは、ちょっとした事件が起きるクリスマスを描くスタイルに、オピオイド中毒の社会問題を組み合わせたもので、1つの贈り物としてジュリア・ロバーツを添えたものと言えるだろう。」

“Ben Is Back” becomes a sort of reverse “A Christmas Carol”: In the wee hours, Holly and Ben revisit assorted shady folks from his past

「深夜過ぎの時間帯に、ホリーとベンの母息子が、彼が以前付き合っていたうさんくさい連中を訪ねて行く時、本作“Ben Is Back”は、行ってみれば“クリスマス・キャロル”の逆バージョンとも感じさせるだろう。」

The movie also turns into something of a Lifetime-style crime thriller, with lots of over-the-top melodrama to be had as Holly desperately drives all around town when Ben goes rogue. But Roberts is splendidly raw and dynamic throughout the plot’s ups and downs.

「同時にこの映画は、道を外れそうになるベンのため、母親ホリーが街中で必死にクルマを走らせる姿を、過剰なメロドラマを抱き合わせた人生スパンで描く一種の犯罪スリラーとして描き始めたりもする。プロットに用意されたこのアップダウンを通じても、ロバーツの演技はダイナミックで素晴らしくも生々しいものとなっている。」

“Ben Is Back” is Roberts’ best film work since her Oscar-winning turn in 2000’s “Erin Brockovich.” As Holly goes from naïve parent to angry mother on a mission, the love never wavers for her struggling child as she faces all of her worst nightmares on one harrowing night.

「ジュリア・ロバーツにとっては、オスカーを受賞した2000年作品“エリン・ブロコビッチ”依頼の傑作と呼べるのが、この“Ben Is Back”である。彼女は、この痛ましい一夜を通じて最悪の悪夢を体験する。その過程で、彼女は無垢な1人から怒りの母親へと変わって行くが、困難に直面した我が子への愛情は、一度も揺らいで見せる事はないのである。」

クリスマスの時期にも痛みは感じるもの

毎年この時期になると、各メディアのみならず、商業、教育、そして福祉施設までもが、クリスマスのハッピーなムードをねじ込んできます。

まぁ、本当にハッピーな人は良いですが、端的に言っても、現代人の人生の苦しみが、この時期だけ特別に消滅するなどという事は有り得ません。手をつないだカップルが夜のイルミネーションデートを楽しんでいる横には、その何千倍の人が、とけない悩みを抱えたままいるのです。

クリスマスに深刻な問題が露呈する様子を描く、この『Ben Is Back』の様な映画は、人間にとっての幸福と苦悩の意味を、もう一度考え直してみる機会だけは与えてくれるものだろうと思います(まぁ、日本で公開されるとしても、1年くらい遅れてになるでしょうけれど)。

それだけでも、大きな意味が有るという事です、そんな事を思いました。

それではまたっ!

参照元
The Guardian
Chicago Tribune
San Francisco Chronicle
USA TODAY

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