映画「The Front Runner」気になる海外メディアの評価とは?

大統領候補の不倫スキャンダルに食いつくジャーナリスト達を描く

金や権力を持った人の行動に、何かの誤りを見つけてそれを糾弾する事は、我々庶民に神が与えた最大の楽しみ、そして権利でもあると言えるでしょう。

しかし、その攻撃が常に生産的であるかと言えば、これはまた別問題。

今回、ご紹介する映画『フロントランナー(The Front Runner)』は、ひょっとしたら世界の歴史に有り難くない影響を残したかも知れない、全米を揺るがしたセックススキャンダルを追って行くストーリーです。

アメリカジャーナリズムが、初めてモラル違反を徹底的に糾弾した瞬間を描くドラマ。その作品に各メディアが寄せた評価をご紹介します。

ゲイリー・ハートのスキャンダル

この作品のタイトルが示す(一応の)主役は、1975年から1987年まで合衆国上院議員を務めた人物、ゲイリー・ハートです。

1984年と1988年の大統領選において、民主党代表の座を惜しくも逃してはいますが、高い理想を掲げるハンサムな政治家である彼の政治的思想には、多くの人が強い期待を寄せていたはずです。

そしてハート氏には立派な実績も有ります。

まず、彼は議員になるとすぐ、チャーチコミッティの一員となり、当時ウォーターゲート事件の余震が残る米国政治界において、CIAやNSAなどの諜報活動を監視する役割を担いました。

また、1979年に起きたスリーマイル島原発事故の際には、上院における原子力規制小委員会のリーダー的役割を演じ、何度も軍用ヘリに乗り込み上空からの視察を行って、事故後の調査もその指揮を執りました。

他にも政治家として多くの功績を残した彼は、PACs(政治行動委員会)から献金(そしておそらく政治的影響)を受け取る事を拒み、自身の家を抵当にし自力で選挙資金を捻出する、と言う、潔癖さも持ち合わせていたのです。

そんな風に、リベラルの急先鋒として、理想主義を前面に押し出していたゲイリー・ハート。1988年の大統領予備選挙に出馬直後は高い支持を得ていましたが、すぐに沸き起こったタブロイド級のスキャンダル騒動により、選挙戦を断念しなければならなくなります。

そのスキャンダルこそ、若いモデルとの不倫騒動でした。

その時、彼にくだされた社会的制裁とはどの様なもので、本当に正しかったのかを、普通とは違う角度でえぐって行くのがこの映画『The Front Runner』との事です。

予告編と作品基本情報

  • タイトル:
    • The Front Runner
    • ザ・フロント・ランナー
  • ジャンル:
    • ドラマ / 実話
  • 日本公開:
    • 2019年2月1日
  • 制作:
    • 2018年
    • BRON Studios
    • Creative Wealth Media Finance
    • Right of Way Films
  • 監督:
    • ジェイソン・ライトマン
  • 脚本:
    • ジェイソン・ライトマン
    • ジェイ・カーソン
    • マット・バイ
  • プロデューサー:
    • マット・バイ
    • ジェイ・カーソン
    • ヘレン・エスタブルック
    • アーロン・L・ギルバート
    • ジェイソン・ライトマン…他
  • 出演:
    • ヒュー・ジャックマン
    • ヴェラ・ファーミガ
    • J・K・シモンズ
    • モリー・イフラム
    • スティーブ・ジシス
    • ママドゥ・アティエ
    • アルフレッド・モリーナ
    • クリス・コイ
    • サラ・パクストン…他

あらすじ

1988年、元上院議員ゲイリー・ハート(ヒュー・ジャックマン)は、大統領選出馬へ向けて順調にコマを進めていました。

彼にとっては、4年前に続き2度目の挑戦です。

民主党代表を懸けた予備選挙を前に、ライバルのマイケル・デュカキスを支持票で10ポイント以上も引き離しているのです。

ハートは若くハンサム、そして理想に燃えたその政治姿勢は、きっと、共和党に亘ってしまった政権を民主党へ奪還し、アメリカだけでなく世界をより良い場所に変えてくれるはずです。

今、世論の指示を背景に、彼自身や、妻リー(ヴェラ・ファーミガ)、そしてビル・ディクソン(J・K・シモンズ)を始めとした側近達も、ホワイトハウス入りへの自信を強めています。

そんな最中、意外な訪問者がハートの元を訪れます。その男性の名は、トム・フィールダー(スティーブ・ジシス)。マイアミ・ヘラルドの記者でした。

フィールダーは、ハートがマリーナに停泊した豪華ヨットの上で、若いモデルであるドナ・ライス(サラ・パクストン)と密接な関係にある写真を持っており、さらには、ハートがライスの家に向かう道中をずっと尾行し、浮気の確実な証拠を手に入れてると言います。

その事について、ハートに直撃取材をしようとするフィールダー。しかしハートは当初、真剣に取り合おうともしませんでした。

しかし、このニュースはすぐに世の中へ公表される事となりました。ハートにとって不幸だったのは、過去の政治家にあったスキャンダルより、メディアがより過激に反応した事です。

瞬く間に全米に広がった、ゲイリー・ハートのセックススキャンダルは、メインストリームの報道機関も連日報道合戦をする程に加熱。

ハートの周囲は、いつでもカメラが付きまとい、自宅の門前には、衛星中継用のバンが何台も24時間停車している状態です。今や、ゲイリー・ハートが掲げる崇高な政治理念に耳を傾ける者など、一人も居ない様に思われました。

そしてついに、彼の順調に進んでいたはずの大統領出馬計画が、がらがらと崩壊を始めるのでしたが・・・

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映画『The Front Runner』気になる現地メディアの評価は?

もちろん、メディアは民主主義国家に間違いを犯させないための番人であり、その報道を参照して最終的に善悪を決定するのは、我々一般の市民であるべきです。

とは言え、その理論が必ずしもうまく機能しないというのも現実。

もし、ゲイリー・ハートが2度目の挑戦で合衆国大統領に昇り詰めていたなら、共和党の大統領が2人連続する事もなく、そして湾岸戦争も勃発しなかったかも知れません。

まぁ、陰謀論的に言えば、米国の軍産複合体などが中東で爆弾を消費したかったから、反戦的な思想を掲げるハートを失脚させる目的で、不倫スキャンダルを仕込んだという見方もできるでしょう。

何にせよ、この騒動は、世界が右か左どちらに倒れるかを決める、1つの大きなターニングポイントだった、とは言えそうです。

この映画は、1988年の騒動の時に扇動的な役割を演じていたメディアの姿を、一定の批判的な目線で追って行くとの事です。ここでは、その作品に対する評価を4つ程ご紹介して行きましょう。

評価1:スキャンダルに圧倒された政治家

先ずはじめは、あのウォーターゲート事件の暴露に大きな役割を果たした、The Washington Postからの評価です。

今は、不倫スキャンダルについての情報がますます高速で拡散し、それに対する批判もより激しく燃え上がる時代です。

そして、そういった風潮の始まりと言っても良いのが、この映画が描くゲイリー・ハートの騒動だとの事。

ここでは、大昔に起きたこの事件がどう描かれているか、そんな角度からの批評になっています。

【The Washington Post】

The Gary Hart movie is here, revisiting a political scandal that now seems quaint

「もはや、懐かしささえ感じさせる、ゲイリー・ハートの政治スキャンダルを描く映画が登場」

This is a movie that intends to raise far more troubling questions than it answers, encouraging the audience to emerge from the story, not with a reassuring sense of certainty but rather the disquieting notion that even solid moral reasoning can incur a grievous cost.

「本作は、そこに何かの回答を示すより、疑問を呈する事で観る者の頭を悩ませる事を目指し制作されたものだ。それは、裏打ちのある確信を与えるのではなく、むしろ、モラル上の確実な理由が問われた場合は多大なコストを支払わされるという、ある種の不安を抱く様に、作品を見終えた観客達を促がすものだ。」

Most profoundly, the filmmakers put Hart’s story squarely in the context of the present, when the norms and traditions that were evolving in 1987 now seem like the quaint artifacts of an era supplanted by a vicious double helix of personal destruction and shamelessness.

「もっとも強く感じさせるのは、本作の制作陣がゲイリー・ハートの物語を、現代の文脈にきっちりと置き換えて描いている点だ。そこでは、個人の破滅と厚かましさが織りなす、危険な2重らせんが占領してしまった、あの1987年を動かしていた常識や伝統が、懐かしい遺物にも思えるだろう。」

One can conclude many things from “The Front Runner”: that Hart was his own worst enemy, that he was haughty and hubristic and fatally out of touch with the times. But, at least in that particular instance of foresight, it’s impossible to say he was wrong.

「中には、本作“The Front Runner”から、幾つもの結論を引き出す人もいるだろう。例えば、傲慢で思いあがっていながら時代には実に疎かった自分自身が、ハートの本当の敵となってしまったのだ、という事である。それでも、今、彼が述べたいくつかの予見についてのみ振り返れるなら、必ずしも間違っていたとは言い難く思えるのだ。」

評価2:善悪の判定は観客達の考えにゆだねる

2つめは、Rolling Stoneからの評価です。

こちらも、いくつかの見方が有るスキャンダルを、作品がどう扱って描いているかなどを批評しています。

【Rolling Stone】

Rewind to the Moment That Politics Went Tabloid

「かつて、政治がタブロイド化した日」

Based on political reporter Matt Bai’s forensically thorough book All the Truth Is Out, the film is a commendably ambitious attempt by director/co-writer Jason Reitman (Juno, Up in the Air, Tully) to throw audiences into the cacophonous circus of sexual politics and let them vote with their conscience.

「政治リポーターであるマット・バイが、完全さを追求して書き上げた書籍“All the Truth Is Out”をベースとし、ジェイソン・ライトマン(“JUNO/ジュノ”、“マイレージ、マイライフ”、“タリーと私の秘密の時間”)が監督と脚本共著を務めたこの映画は、控えめな態度と野心を同時に備えた作品となっている。それは、観客達をセックススキャンダルの周囲に沸き立つ不協和音の中へ放り込み、彼らの良心に賛否を決めさせようとするものだ。」

In the script that Bai co-wrote with Reitman and former political consultant Jay Carson, myriad factors come into play. There’s more than a hint of hubris in Hart’s challenge to the press: “Follow me around, I don’t care.”

「バイ、ライトマン、そして元政治コンサルタントであるジェイ・カーソンにより書かれたこの脚本は、無数と言って良い要素を働かせながら展開する。そして、ゲイリー・ハートが、“嗅ぎまわれば良い、かまやしないさ”と言い放つ時、そこには、それ以上ない傲慢さが感じられるだろう。」

And not even Jackman, one of the most persuasive actors around, can sell the argument that personal weakness doesn’t stain public character in the era of #MeToo.

「同時に、現状でも最も説得力を発揮する役者ヒュー・ジャックマンがそれを発していたとしても、公のキャラクターは個人的な欠点と関係ないなどと言う主張は、#MeTooが叫ばれるこの時代では、受け入れられもしないのである。」

評価3:スキャンダルを通じて真実を追う

3つめは、The New York Timesの批評です。

この映画は、ずるがしこい政治家を糾弾するという、通り一遍の物語ではなく、むしろ糾弾する側のメディアが軽率に騒ぎ立てている様子を描いてゆく、一種の風刺劇だとも言えるでしょう。

ここでは、そんな映画としての作風について触れられた批評となっています。

【The New York Times】

A Sex Scandal Upends a Campaign in ‘The Front Runner’

「セックススキャンダルを逆から捉える、“The Front Runner”」

“The Front Runner,” based on a book by Matt Bai, a former writer for The New York Times Magazine, takes a dimmer view of the fourth estate.

「ニューヨーク・タイムズ・マガジンの元ライターであった、マット・バイによる本を原作とした、この“The Front Runner”は、第4の権力(報道)が持つ暗部を描き出して行くものだ。」

Reitman uses Altmanesque sound design and serpentine camera movements to convey the chaos and kineticism of a process in constant, frantic motion. But after a while, once we’ve met the principal players, the speechmaking starts and a potential comedy of political manners turns into a pious, tendentious morality play.

「ここでのライトマン監督は、ロバート・アルトマン調の音響に、うねるようなカメラの動きを加え、止まる事の無い大騒動を、カオスと運動力に満ちたプロセスとして描いている。しかし、主要なプレイヤー達が我々に紹介される冒頭の部分を過ぎ、演説の場面が見られる様になると、政治コメディーにも思えたその話は、実にそれらしく売り込んでくるモラルの物語へ変貌して行く。」

“The Front Runner” regards the spectacle of American democracy, which has often been messy, unfair and ridiculous, with high-minded disdain. The film excites our curiosity about Hart’s behavior and then declares it to be none of our business. It scolds rather than illuminates, and prefers the defense of power to the pursuit of truth. That may be its sole claim to relevance.

「この“The Front Runner”は、しばしば乱雑で、不公平かつばからしくもあるアメリカ民主主義が生み出す見世物を、高尚な軽蔑心で捉えようとしたものだ。これは、ゲイリー・ハートが取った行動への関心を一度は刺激し、その後、実はどうでも良い事だと宣言してみせる。何かを明らかにするより、むしろ小言を並べる。そして最後に、真実の探求を擁護する力を表す点だけは、本作が妥当性を主張できる唯一の点だろう。」

評価4:テンポよく十分な描写で、現代に問いかける一作

最後は、Los Angeles Timesからの評価です。

この映画が興味を引く、その1つの理由は、ポスターや予告編映像などで主演のヒュー・ジャックマンが見せる、いかにも80年代の政治家だと感じさせる容姿でしょう。

全米を巻き込む程に大きくなった通俗的なスキャンダルに巻き込まれた、1人の理想主義者を彼がどう演じてくれるかは、映画ファンとしてはとても気になる所だと思います。

ここでは、そんなジャックマンの存在感に触れつつ、やはり、作品はスキャンダルの意味についての疑問を投げかけるものである、という批評が書かれています。

【Los Angeles Times】

‘The Front Runner’ plays it fast and funny, with a winning Hugh Jackman taking on Gary Hart’s political unraveling

「“The Front Runner”は、ヒュー・ジャックマンが、ゲイリー・ハートの政治失脚劇を見事に演じた、テンポよくてファニーな一作だ。」

with Jackman, who does excellent, charismatic work presenting Hart as an elusive politician, at times arrogant and thin-skinned but a genuine idealist who wanted to govern and didn’t see why he had to reveal his personal life to do so. “Front Runner” does equally well with the women in Hart’s life, starting with Farmiga, who brings her formidable presence and skill to the challenges of being a politician’s wife.

「ここでのゲイリー・ハートは、時に尊大で怒りっぽいところも有る捕まえどころのない政治家である。同時に、純粋な理想を実現するための統治権を欲しながら、それを手に入れるため、何故、プライベートまで公表する必要があるかを、理解していない人間だ。そして、ヒュー・ジャックマンは、素晴らしくもカリスマ性を感じる演技により、それを描写している。加えて本作には、政治家の妻である事の苦労を、大きな存在感と演技力で表現するヴェラ・ファーミガなどを初めとした、ハートの人生に登場する女性像も良く描かれている。」

Did the Herald and everyone else overstep media boundaries or was the information sought an essential key to character? “Front Runner” is careful not to seem to be taking sides with this question.

「時のマイアミヘラルド紙、そして他の関係者全ては、メディアとしての一線を踏み越えてしまったのか、あるいは、この政治家を十分に知るために、情報が求められただけだったのか?本作“Front Runner”は、そのどちらの意見に傾く事もない様、注意深く描かれている。」

Given that “Front Runner” opens on election day, the film also encourages audiences to ponder how the Hart-stopping change in media behavior has impacted politics. Do today’s successful candidates need increasingly stellar morals as a result of what happened, or are they simply more adept at being celebrities and surviving the waves of character assassination?

「投票日に合わせ公開された事もあり、この映画“Front Runner”は、あの日メディアの活動内容を急激に変化させた出来事が、いかに政治に影響を与えたかを、再び考えさせる機会も与えている。(そこにあるのは)この件が有ったからこそ、今、政治家として表舞台に立つためには、傑出したモラル感への日々強まる要求に応えなければならなくなったのか、あるいは彼らには、セレブリティとして存在する術が求められ、押し寄せる社会的攻撃の波を上手くかわしてさえ行けば良いのか?、と言う疑問だろう。」

モラル違反が徹底的に攻撃される21世紀とは!?

有名人や政治家の行動について激しく糾弾していても、身近にいる一番文句を言いたい相手には、まったく一言も出せないというのが、我々、一般大衆です。

一定期間に一度、誰かをこき下ろさないと、そんな心のバランスが保てないという事もあるでしょう。

そう考えると、誹謗中傷が容易に行え、それが急激に盛り上がる様になった21世紀の人間社会は、ある種、求められた通りの正常進化を遂げているとも言えます。

ただ、進化が必ず未来をもたらすと約束されていないのは、これまで数万種類の生物が地球上で絶滅してきた事を考れば明らか。

だから、その時の風潮に乗って、悪口を発信しまくっている内に、自分の足元がさらわれない様に注意したいものです。

それではまたっ!

参照元
The Washington Post
Rolling Stone
The New York Times
Los Angeles Times

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