人種を超えた友情のドラマ:映画「Green Book」海外メディアの評価とは?

人種分離主義を超えた友情の物語

欧米の極右思想主義者は、日本の政策をとても評価しているそうです。

それは、日本がほとんど外国人の移住を認めない主義を貫いているからなのだとか。

我々現代の日本人も、他の国の政治指導者が放った発言を、人種差別的だなどと必ずしも批判できる立場にいない、という事なのです。

物事の内容を知らないまま、軽率に批判だけしてしまうのは、時に恥ずかしい結果を生み事もあります。

さて、日本のエンタメ界ではタブーになっている人種差別の様な問題を、おおっぴらに扱ってメジャーな劇場向け映画に仕立て上げられるのも、これまたハリウッドの強みの1つ。

今回は、そんな映画の1つ、『Green Book』の評価をご紹介します。

黒人旅行者達の命綱であったガイドブック

この映画のタイトルとなっているグリーンブックとは、ニューヨークで郵便局員として生活していたヴィクター・ヒューゴ・グリーン氏が、1936年から66年に亘り書き続けた、いわゆる黒人向けドライブ旅行ガイドの事です。

アメリカ合衆国の南部は、今でも保守的な風潮が強いと言われていますが、公民権運動が実を結ぶ1964年頃までは、世の中の施設を白人と黒人で分離するよう定めた法律、いわゆるジム・クロウ法が生き残っていました。

ホテル、レストランだけでなくガソリンスタンドなどの商業施設も、人種によって区別するのがこの法律の目的。そして、マジョリティの営業者は、有色人種が自分の商売を利用する事を嫌っていた、そんな時代の法律です。

結果的に、黒人の旅行者にとっては、非常に不便な状況を生み出していた訳です。

一方、1960年代にはアフリカ系の人にも、自動車で国内を移動する人口が増加していきました。しかし、広い国土の旅行中に必要な物がまったく購入できないとなると、彼らにとっては命にもかかわる事態となります。

そんな時代において、彼らが旅する際、安心して利用できる施設の場所を紹介していた(おそらく)唯一の書籍が、このThe Negro Motorist Green Book、つまり、この映画のタイトルになっているグリーンブックだったのです。

予告編と作品基本情報

  • タイトル:
    • Green Book
    • グリーン・ブック
  • ジャンル:
    • ドラマ / 実話
  • 日本公開:
    • 2019年3月
  • 制作:
    • 2018年
    • DreamWorks Pictures
    • Wessler Entertainment
    • Participant Media…他
  • 監督:
    • ピーター・ファレリー
  • 脚本:
    • ピーター・ファレリー
    • ブライアン・クリー
    • ニック・ヴァッレロンガ
  • プロデューサー:
    • ジョン・スロス
    • オクタヴィア・スペンサー
    • ジョナサン・キング
    • ニック・ヴァッレロンガ
    • チャールズ・B・ウェスラー…他
  • 出演:
    • ヴィゴ・モーテンセン
    • マハーシャラ・アリ
    • リンダ・カーデリーニ
    • セバスティアン・マニスカルコ
    • ジョセフ・コーテス…他

あらすじ

1962年のアメリカ合衆国、ニューヨークシティ。

トニー・リップ(ヴィゴ・モーテンセン)は、ナイトクラブ『コパカバーナ』の腕利き用心棒として生活していました。

この道での彼の評判はなかなかでしたが、今般、ちょっとした問題が持ち上がる事になります。クラブが改装のためにしばらく閉店すると決まったのです。

もちろん、商売しない間は給料も無し。どうしたものかと考えていたトニーに、とある仕事の話が舞い込みます。

何でも、‘ドクター’の運転手をやって欲しいという事なのです。

まぁ、断る理由もないトニーは、さっそく問題のドクターと面談をしに向かいますが、そこで驚愕の事実を知らされます。

なんと、彼が運転手を務める相手は、ドン・シャーリーと言う名の黒人ミュージシャンだったのです。ドクターというのは、天才的な演奏をする彼を称賛して与えられたニックネームでした。

今、ドンは、南部での演奏ツアーを準備しているのですが、その土地はどこも人種差別が激しい場所ばかり。だから彼は、想定される軋轢や騒動を処理してくれる、頼れる用心棒が必要だと言うのです。

もちろん、イタリア系の白人であるトニーは、この時代の他の白人同様に、アフリカ系アメリカ人への敬意など持ち得ていません。もちろん、黒人のために働く事などまっぴらごめんです。

しかし、本職の用心棒が休業中で、愛妻のドロレス(リンダ・カーデリーニ)にやさしく促された事もあり、しぶしぶながら、ドンのドライバーを引き受ける事にしました。

2人は、黒人旅行者向けに発行されている、南部の安心して立ち寄れる場所をまとめたガイド『グリーンブック』を手に、キャデラックに乗り込み旅へと出発します。

自身が奏でる音楽だけでなく、その生活スタイルや考え方も高尚できちんとしている、アフリカ系のドンと、日々、腕っぷしだけをふるって生活しているトニー。

当初、2人の間には大きなギャップしか無い様に思えましたが、自分に無い良い点を相手の中に見つけ合う内、少しずつお互いに心を許して行きます。

この度の終着点で、トニーとドンの2人は、何を手に入れるのでしょうか?・・・

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映画『Green Book』気になる現地メディアの評価(レビュー)は?

ジャンル的に言うと、門外漢が慣れない場所に足を踏み入れる‘フィッシュ・アウト・オブ・ウォーター’的な要素が1つ。加えて、登場人物が世の中のステレオタイプと逆になる‘立場逆転もの’、さらに、不釣り合いな2人が行く‘バディー系ストーリー’、などの要素が、この映画には混ざっています。

それらを上手く組み合わせつつ安定させた、というのが、この映画『Green Book』から伝わる印象です。

(特に、今の様な時代に)人種問題を扱う映画は、とかく説教じみた作風になり勝ちかも知れませんが、ここでは有能な2人の主演俳優の力もあってか、ネチネチ意見を押し付ける事もなく、かなり素直なイメージに仕上がっている様です。

それでは、各メディアが作品に寄せた評価を4つ程見て行くことにいたしましょう。

評価1:とにかく主演2人は素晴らしい

先ず最初は、USA TODAYからの批評です。

主演コンビの間のやり取りが、作品の殆どになるのは明白なのが、この映画だと言えます。従って、それが成り立つかどうかも、全て、彼らの演技能力にかかっている訳です。

ここでは、そんな2人の役者の仕事振りについて、肯定的な評価が書かれています。

【USA TODAY】

Superbly acted ‘Green Book’ makes its case for being a new holiday classic

「新たなホリデークラシックとなるべく、素晴らしい演技で語り掛ける“Green Book”」

Directed by Peter Farrelly, the comedy-drama dabbles in humor and weighty matters equally well in tackling the prejudice of the Jim Crow South – and the initial intolerance of two very different men who find common ground, learn from each other and form a close friendship on a musical road trip.

「ピーター・ファレリーが監督したこのコメディドラマは、ユーモアの中でちょっと遊んだりもする。同時に、当初はお互いへの不寛容さを表す2人の男が、ジム・クロウ法の生きていた時代の南部を走り抜ける演奏会ツアーの間に、それぞれの内面を学び、深い絆を作り上げ、共通の立場を見つけ出して行くという、重みのある題材にも取り組んでいる。」

Ali is aces in the musical sections and gets one Oscar-ready speech in the rain. Mortensen gets most of the best lines (“Kentucky Fried Chicken in Kentucky – when’s that going to happen?!”) and is blessed by playing a big lug who becomes enlightened but never loses his rough-and-tumble charm.

「マハーシャラ・アリは、音楽演奏の場面で名人ぶりを発揮しながら、雨の中の1つの場面では、オスカー候補に成り得るスピーチを披露している。ヴィゴ・モーテンセンの方には、気の効いたセリフ(ケンタッキーと言えばKFCだろ、いつ食いに行くんだ?)のほとんどが用意されている。そして、無鉄砲さの持つ魅力を失わない様にしながら、タフガイの内に秘めたハートを表現する役どころが、実に良くはまっていると言える。」

Though not particularly innovative with its cinematic tropes, “Green Book” does them exceedingly well.

「映画的な比喩と言う意味では、取り立てて革新的でもないながら、本作“Green Book”は、実に上手くそれらを描写しているのだ。」

評価2:役者の中から引き出す自然な質感

2つめは、Los Angeles Timesからの評価です。

こちらは、人種問題映画のマスターピース『ドライビング・Miss・デイジー』になぞらえながら、同じように肯定的な批評となっています。

【Los Angeles Times】

Driving Mr. Shirley, starring Viggo Mortensen and Mahershala Ali

「これは、ヴィゴ・モーテンセン&マハーシャラ・アリ共演の、“ドライビング Mr. シャーリー”」

A crowd-pleasing hit at the Toronto International Film Festival in September, the movie may not be accurate history (welcome to the movies!). It may not even be particularly interested in one of its two main characters, for various reasons. But with actors as wily as Viggo Mortensen and Mahershala Ali, plus a ringer we’ll get to a minute, the quality of the material matters less than usual.

「9月に行われたトロント国際映画祭において、観客達から大いに称賛されたという本作は、史実には正確に従ったものではない(だからこその映画だ!)。そして、いくつかの理由から、2人の主役の片方に、さほどの関心を払っていないというのも事実と言える。しかし、ヴィゴ・モーテンセンとマハーシャラ・アリと言う役者が、芸達者にお互いの共通点を描写して行く中では、細かい素材の扱い方など、さほど問題にはならないのだ。」

“Green Book” relies almost entirely on the interplay between Mortensen and Ali. It’s a car-based journey of discovery, begun on a note of mutual wariness, ending on an affirmative flourish of true friendship.

「この映画“Green Book”は、ほぼモーテンセンとアリによる2人芝居によって出来上がったものだ。それは、自動車で行く発見の旅であり、お互いに向けた警戒的なムードから始まり、真の友情から生まれる肯定感を、大げさな程に表しつつ終わって行く。」

The movie’s lean toward Tony Lip and his universe is no surprise, given that the script comes from Nick Vallelonga (Tony’s son), director Farrelly and Brian Currie. On the other hand: The focus gives the fabulous Linda Cardellini (as Dolores, Tony’s wife) some welcome screen time.

「監督のピーター・ファレリーとブライアン・クリーに加え、(主役トニーの実の息子)ニック・ヴァッレロンガが脚本を執筆した事を思えば、この映画がトニー・リップの方に傾いて感じられるのも、不思議ではない部分だろう。その一方で、(トニーの妻、ドロレス役として)素敵なリンダ・カーデリーニに、喜ばしい出演時間を与えてもいる。」

Director Farrelly knows a narrative gold mine when he sees one. And he knows enough to stay out of his actors’ way.

「ピーター・ファレリー監督は、筋書きの中から金脈を掘り当てる事が出来る人物だ。そんな時の彼は、俳優に余計な口出しをせず演技させるのである。」

評価3:偏りを感じさせるシナリオでも問題にならない

次は、The Seattle Timesの評価です。

まぁ、人種という境界線で分離された構図を描く時は、必ず、どちらかの世界からの目線にならざるを得ません。

一般的にはそういった事情が、この分野の映画を、ただ辛辣だったり説教じみていたり、軽率なお涙頂戴にしてしまう大きな原因となるでしょう。

この作品も、同じ問題を抱えているとは言え、2人の軽妙なやり取りや素晴らしい音楽シーンなどの助けもあってか、最終的には、意味深いながらも受け入れやすいものに仕上がっている様です。

【The Seattle Times】

2 electric actors light up this tale of a real-life friendship

「輝く2人の役者が照らし出す、真実の友情の物語」

The likable tale of a real-life friendship, “Green Book” lets us spend two hours in the company of two electric actors.

「実際の友情の物語を親近感と供に描く映画、“Green Book”は、2人の眩しいような役者と共に過ごす2時間を、観客に提供してくれる。」

Perhaps because the screenplay is co-written by Tony’s real-life son, Nick Vallelonga, “Green Book” often feels out of balance, focusing on Tony when its far more intriguing character is Don.

「この“Green Book”が、より興味深いキャラクターであるドンより、トニーの方に重きを置きがちな理由は、その脚本作成にトニーの実際の息子であるニック・バッレロンガも参加しているためである。」

You watch “Green Book” wishing it were a little better but nonetheless enjoying how very good much of it is, thanks to Mortensen and Ali, who make every moment sing.

「観る人は、(上記の様な)本作の小さな欠点が無かったらもっと良いのに、と願いもするだろう。しかしそんな中でも、作品の殆どの部分はとても良い出来である事を楽しむはずだ。それは、あらゆる瞬間を奏で上げる、ヴィゴ・モーテンセンとマハーシャラ・アリの演技がもたらすのだ。」

And while the film’s final moment is right out of a screenwriting manual, it nonetheless works enchantingly. I left wanting to know much more about the real Don Shirley (who died in 2013), but happy to have spent time in the car with him and Tony.

「さらに言うと、作品のエンディングが教科書からそのまま持ってきた様であったとしても、それが実に魅力的に描かれているのも事実だ。私は、実際のドン・シャーリー(2013年に他界している)についてもっと知りたいと感じた。とにかく、彼とトニーと共に自動車の中で過ごしたこの時間は、ハッピーなものだった事は確かである。」

評価4:偉大なキャスティングでオスカーも視野に

最後は、Boston Heraldからの評価です。

ハリウッドのメジャースタジオであれば、まちがいなくオスカー目当てでヒューマンドラマを企画するのだと思います。

しかし、人間関係の機微とか意味を描くのに、巨大な舞台セットもアンサンブルキャストも必須ではありません。むしろ、地に足の着いたキャスティングで、細やかな描写を多く描く方が、映画としての質感は高まるでしょう。

こちらの批評では、本作が、そう言った土俵の上でなら十分アカデミーにもアピールしそうだ、という内容になっています。

【Boston Herald】

Take an unforgettable ride

「忘れ得ぬドライブの旅へ、いざ」

Directed by Peter Farrelly, whose previous films, co-directed with his brother Bobby, were comedies, “Green Book” has a lot of comic flourishes in it, and the film could have easily descended into “My Cousin Vinny” territory, and it takes an unmistakable “It’s a Wonderful Life” turn. But what makes the film transcendent and holds it all together is the acting. Ali and Mortensen have a palpable fraternal chemistry, and they are great actors at the top of their game.

「これまで、コメディー映画を兄弟であるボビーと共に演出してきた、監督のピーター・ファレリーは、この映画“Green Book”にも、かなりなコメディっぽさを取り入れている。そこには、“いとこのビニー”の世界に着地してしまう可能性も十分有ったし、明らかに、“素晴らしき哉、人生!”を思わせる部分も見られる。だとしても、本作を卓越的なものとしてまとめ上げた要素とは、やはり演技そのものである。マハーシャラ・アリとヴィゴ・モーテンセンの間には、友情を中心にした相互作用が明確に見て取れるし、この様な作品にとっては、彼ら2人は最高で偉大なキャスティングだと言えるだろう。」

The culture police will call “Green Book” a whitewash and a fairy tale. Bigots will bigot. But it was one of the most enjoyable films I have seen all year, and if it becomes the Oscar front-runner I will not be surprised or unhappy.

「文化性を指摘して周るような人々は、本作“Green Book”には、白人寄りのおとぎ話だとレッテルを張るかも知れない。偏屈に見ればそうなるのだろう。しかし、本作が私にとって、今年の中でも最も楽しめた映画の1つに挙げられる事は確かで、仮に、オスカーの有力候補となったとしても、私は驚かないし、文句など決して言わないだろう。」

学ぶ、というより、楽しめそうなドラメディ

日本のメディアや教育機関は、日本人の寛容さや博愛主義を国内外に必死に売り込み、刷り込もうとしている様です。

実際には、差別の理由は肌の色、宗教、文化などの違いだけではありません。身長、体重、出身県、アレルギー、性格etcと、あらゆる日常的な要素を理由にして、現代日本人も差別を行っています。

理由が有るにせよ無いにせよ、自分が作ってしまった嫌悪感とか憎悪の壁を一度くらい取り除いて、相手の中身について素直に見て見たら、もっと生産的な人間関係が作れるんだよと教えてくれるのが、この『Green Book』のようなドラマだと言えます。

そして、ストーリーを操作的だったり搾取的に演出せず、比較的ストレートに意味を語りかけてくれる所が、最大のチャーミングポイントとなっている、そんな印象の映画でもあります。

まぁ、他にも似たような作品がわんさか存在する中、映画芸術科学アカデミーが本作にどの位の関心を払うかは、その時の風向きを見ないと分からない所でしょう。

しかし、良いドラマを探しているという一定の映画ファン層には、確実にアピールしそうなのが、この一作という事は言えそうです。

それではまたっ!

参照元
USA TODAY
Los Angeles Times
The Seattle Times
Boston Herald

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