映画「Viper Club」気になる海外メディアの評価とは?

紛争を報道するジャーナリストが拉致されたら・・・

戦場ジャーナリストの仕事は、自ら体を張って危険な紛争地に足を踏み入れ、そこで本当に起きている事や、現地の人々の生活についてを、西側先進国の中で安穏とした生活を送る我々に伝える、という事です。

ですが、彼らが現地の過激派グループのターゲットとなり、誘拐・監禁され、その命が身代金との交換条件に使われる事件が多発しているのも、これまた1つの事実なのです。

今回、ご紹介する映画『Viper Club』は、そんな事件が起きた時、自国の政府は何をしてくれるか、してくれないのか、そして、残された家族は何が出来るのかについてを、スリラー仕立てで描き出すという一本になっています。

主役を演じているのは、息子を人質に取られた状況に立ち向かう、強く聡明な女性像がぴったりのアカデミー賞女優、スーザン・サランドンです。

テロリズムの被害者というテーマを、いつもとは少し違う角度で描くこの作品、どの様な評価を得ているでしょうか。

世界に広がる紛争地帯

日本の外務省は、海外安全ホームページにおいて、海外渡航先の危険度を、十分な注意を促す「レベル1」から、その国からの退避を勧告する「レベル4」までに分類しています。

この映画の中で事件が起きるシリアは、もちろん最大級に危険なレベル4ですが、アフリカ大陸北部には同じような地域が多く存在します。また、エジプトの西部に渡航を控える様に求められるレベル2〜3の地域が有ったり、アジア近辺では、フィリピン南部のミンダナオ島が同様の危険度に分類されていたりします。

こうやって見ると、普通の日本人が旅行で訪れたいと考える場所に対しても、日本政府は安全上の懸念を抱いているケースが多く有る事がわかります。

海外で、何かのトラブルに巻き込まれた場合は、可能な限りすみやかに大使館や領事館へ助けを求めるべきですが、かと言え、日本の現地公館が出来る事は、情報の提供や家族を呼び寄せる場合のパスポート発給の援助などがメイン。

渡航者が本当に複雑な状況に陥った場合は、自国の政府が出来る事はかなり限られていると思われます。

そんな中、不安定な紛争地に入るジャーナリスト達には、公的なもの以外の互助組織が必要かも知れません。実は、本作のストーリーに登場する「Viper Club」とは、そんな記者達を横でつなぐウェブ組織の事なのです。

まぁ、熱意の無い政府のエリート達より、問題に近い立ち位置の市民団体が動いた方が、当面の解決は速いとも考えられますが、その考え方は本質的に正しいのでしょうか、、、

予告編と作品基本情報

  • タイトル:
    • Viper Club
    • ヴァイパー・クラブ
  • ジャンル:
    • ドラマ / スリラー
  • 日本公開:
    • 未定
  • 制作:
    • 2018年
    • CounterNarrative Films
    • Ingenuity Studios
    • Marakesh Films
  • 監督:
    • マリアム・ケシャヴァーツ
  • 脚本:
    • マリアム・ケシャヴァーツ
    • ジョナサン・マストロー
  • プロデューサー:
    • スーザン・ルバー
    • J・C・チャンダー
    • ニール・ドッドソン
    • アンナ・ガーブ…他
  • 出演:
    • スーザン・サランドン
    • ジュリアン・モリス
    • パトリック・ブリーン
    • イーディ・ファルコ
    • マット・ボマー
    • シェイラ・バンド
    • ローラ・カーク
    • ダミアン・ヤング…他

あらすじ

ヘレン・スターリング(スーザン・サランドン)は、ニューヨークの大病院内にある高度救命救急センターで働くベテラン女性看護師。

彼女は、誰からも信頼される存在であり、教育係でもあります。新人医師のレザ(アミール・マラクルー)には、患者の家族に最悪の事態を告げる時の心構えなどを教えているのです。

しかし、彼女の落ち着いた態度は表面上の事。実は内心、耐えがたい程の心配事を抱えています。

フリーランスのジャーナリストである息子、アンディー(ジュリアン・モリス)が、内戦中のシリアで取材中、過激派組織に拉致され、命の代償として身代金が要求されているのです。

この件は、アメリカ国務省や司法省が、もう3か月も解放の交渉を続けているはずなのですが、事態はまったく進展する様子が見えません。

一定的に連絡をよこすFBI局員(パトリック・ブリーン)は、事件の当初から、この事を口外しない様、ヘレンに言い続けています。その方が、交渉などを秘密裡で進めるのに有利だ、と言うのです。

ヘレンは、この要請にしたがい、いままで周囲には事件の事を一切もらさず過ごしてきました。

それでも、様子を確認するため国務省へ直接出向いた時、多くの外交的諸問題の中で、アンディー救出の仕事がいかに順位が低いか思い知らされ彼女。

こんな風に時間を浪費している間に、自分の息子がどの様な目に遭っているかも分からない・・・

そんな彼女は、かつて息子がアクセスしていた秘密サイトを発見します。それは、ジャーナリスト仲間だけのコミュニティーで、紛争地取材のために重要な情報などをお互いが交換しあっている、ヴァイパー・クラブという名のサイトです。

何とかヘレンは、その運営側と接触する事に成功し、アンディーの仲間だというサム(マット・ボマー)そしてシェイラ(シェイラ・バンド)と出合いました。

彼らが言うには、政府が身代金は払わない態度を示していても、必ずしもそれは真実ではない。もし本当にアンディを助けたいなら、金を用意してテロリスト集団に送る事しか方法が無いとの事。

そして、ヴァイパー・クラブにはその手段が幾つか用意されていると言うのです。

クラブのリーダー格は、シャーロット(イーディ・ファルコ)という女性活動家で、彼女には、自分の子供をアンディと同じ様な状況から救い出した経験があるとも聞かされました。

個人の命など重要視しない国家の官僚主義にいら立っていたヘレンは、ジャーナリスト仲間からのこの提案に乗る事を決めた様です。

果たしてヘレンは、アンディーを無事に取り戻す事ができるのでしょうか?

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映画『Viper Club』、気になる現地メディアの評価は?

テロリストに捉えられた自国のジャーナリストを、合衆国政府が救う事も出来ない、と言うより、真面目に救う気も見せないという状況を描いたのが、このスリラードラマ。

そして、家庭向けのデジタル配信業務を、YouTubeが請け負っているというのが、この映画『Viper Club』。

どうしても、イデオロギー的な所を勘繰りたくなってしまうのですが、そういう部分で説教臭い事を言ってくる映画でもなさそうです。

取扱う問題には深く大きな意味が有りますが、ドラマとしては、アメリカ国内にいる母親の周囲で起きる事だけにフォーカスしながら、彼女を取り巻く大きな緊張感を追って行く、そんな印象のストーリーです。

それでは、スーザン・サランドン主演のこの映画、メディアからの評価を4つ程ご紹介して行きます。

評価1:構成上の工夫がもたらす問題点

先ず最初は、Detroit Newsからの評価をご紹介します。

J・J・エイブラムスとかマイケル・ベイであれば、一定量以上の火薬とモデルガン、そして血のり&CGIなどを用意して、期待通りのアクションスリラーとして描いていたはずなのが、この映画のモチーフです。

とは言え、これを制作したのは女性監督。中東の争乱についてを、もっと血の通った新鮮なシナリオ構成で描こうとしたのだと思います。

ここでは、その取り組みが必ずしも上手く行っていない、そんな批評となっています。

【Detroit News】

‘Viper Club’ too distant to be effective

「“Viper Club”、心動かすためには、あまりに遠くで起きた出来事」

There are a number of interesting things going on in “Viper Club.” Unfortunately, too few of them are happening on screen. This is a tangential experience film; instead of showing the main action, it shows a person’s reaction to that action. This can and does work if that reaction is dramatically strong on its own. The reaction here, though, is somewhat muddled (if sincere)

「この映画“Viper Club”には、興味深い出来事が多数発生しているはずなのだが、何故だか、そのほんの一部だけがスクリーンに描かれる。これは、主要な出来事を映像で描く代わりに、誰かがその出来事に対し示した反応を描くという、体験的な意味での接点を欠いた映画なのだ。もし、そのリアクションが、描いているドラマにふさわしい力強さを見せるものなら、まだ、効果も発揮するのだろう。しかしながら、ここでのそれは、(仮に誠実なものだったとしても)見る者をただ困惑させてしまうのだ。」

There are a lot of other ways writer-director Maryam Keshavarz could have approached this. To her credit, she does raise an essential question — who’s responsible for idealistic adrenaline junkie freelancers who choose to go into danger zones with no backup? Parents and friends likely to be bankrupted by ransom demands? The government (taxpayers)?

「監督兼脚本家を務めたマリアム・ケシャヴァーツとしても、他に多くのアプローチ手法が考えられたはずだ。とは言え、理想主義でアドレナリン中毒のフリー記者が、単独で危険地域に踏み込んだ時は誰が責任を取るのか?身代金を要求された両親や友人はそのために破産するべきなのか?あるいは政府が(税金で)払うべきなのか?、といった重要な疑問を、この監督がここに提示している点は明記するべきだろう。」

評価2:陳腐にしか感じられないテーマ

次は、The Washington Postからの評価です。

こちらは、プロットだけでなく他の全体像も含めて、テーマ性が使い古されたものにしか感じられない、という批評です。

【The Washington Post】

Even Susan Sarandon can’t save this cliched thriller

「この様に使い古されたスリラーでは、あのスーザン・サランドンでも手に負えない。」

“Viper Club” is storytelling at its most heavy-handed.

「この映画“Viper Club”は、最も不器用にストーリーを語る一例と言って良いだろう。」

While the Oscar-winning actress elevates the material — delivering a nervy, understated performance — there is not much she can do to save the film from its own tonal incongruity,

「オスカー受賞女優が、抑制の効いた中で神経質さを表す演技を提供し、その題材を支えていると言っても、その物語のトーンが醸す不調和感の中では、成功を手にするのはかなり難しいと言わざるを得ない。」

By the time “Viper” arrives at its predictable conclusion, its hackneyed foreshadowing ensures a halfhearted ending that has all the impact of a shrug. If the movie doesn’t care about the real Helens and Andrews of the world, how can we be expected to?

「本作“Viper Club”が、その予想できるエンディングへ辿り着く時、そこに見らる陳腐な終わり方は、全ての観客に肩をすくめさせるに十分な、半端な入れこみ具合で作られた結末を、決定づける事にしかならないのだ。」

評価3:アカデミー女優の見ごたえある存在感

3つめは、The Seattle Timesが寄せた評価です。

この映画のプロットは、観る人の(政治的な?)立場などによると、非常にいら立たせる事もあるものでしょう。

それでいて、主演俳優の演技が、ほとんどすべての原動力になるべき、そんな映画だとも言えそうです。

こちらでは、その演技についての称賛が書かれています。

【The Seattle Times】

Susan Sarandon brings grace, heartbreaking power to hostage drama

「人質事件のドラマの中、スーザン・サランドンが優雅で心打つ演技を見せている。」

In “Viper Club,” Helen Sterling (Susan Sarandon) is a woman under soul-crushing stress. And yet on the outside she gives no sign of it.

「この映画“Viper Club”では、ヘレン・スターリング(スーザン・サランドン)は、心が折れそうなストレス下に置かれている。それでいて、外観からはその気配を一切消しているのだ。」

She’s walking an emotional tightrope. Sarandon walks it with no missteps. It’s a remarkable performance.

「彼女は、まさに感情的な綱渡りをし続けていて、サランドンはその上で一つの危うさもなく演じ切っている。これはまさに、特筆されるべき演技である。」

Sarandon plays the part forcefully yet delicately. There are no polemics here, just a portrait of a mother willing to pay any price, to sell her house to raise the ransom, to beg for the life of her son in a video she makes at the urging of the Viper Club. There is grace in Sarandon’s performance. And heartbreaking power.

「サランドンは、力強さと繊細さの両方を表現してみせる。この映画は、議論などではなく、1人の母親が、息子を助ける身代金のためなら家を売る事などいとわず、支援団体(Viper Club)にせっつかれる様に撮影した動画の中、彼の命を助けてと懇願する姿を見つめるものなのだ。そして、サランドンの演技は優雅とも言え、同時に心を打つパワーも持ち合わせているだろう。」

評価4:地政学的問題を、一市民の目だけを通してみる

最後は、Varietyからの評価をご紹介。

こちらでも、テロリズムや地政学が絡む問題を、一母親の目線だけで描こうとした事について、ややネガティブな評価となっています。

【Variety】

Susan Sarandon plays a nurse whose journalist son is held hostage in this earnest but slow-moving drama.

「誠実に、そしてスローに展開するドラマの中、スーザン・サランドンが、息子を人質にとられた女性看護師を演じる。」

An empathetic turn by Susan Sarandon as an anxious mother whose journalist son is being held hostage by overseas extremists is enough to hold together “Viper Club.” But it’s not quite enough to render this subject as compelling as it should be; the intimacy of the protagonist’s viewpoint also results in an isolated and monotonously apolitical look at a narrow civilian aspect of turbulent global politics.

「この“Viper Club”を作品としてまとめるだけであれば、息子が海外の過激派に人質として拉致されたため不安に包まれている母親を、スーザン・サランドンが演じるという事だけで十分だったろう。ただ、求められる程度の本質的説得力をもって描くという事なら、話はまた別になる。母親の目線を通す事で得られる親近感は、同時に、吹き荒れるような国際政治などに関心も無い、単調な自分の世界を生きる一市民の目線としても、そこに表現されてしまうからだ。」

Sarandon is just the right actress to fill the character’s many private, worrisome moments with rich emotion, but “Viper Club” is far too full of those moments.

「サランドンは、不安にさいなまれた人の個人的な領域を、豊かな感情性で表現させるには最適な女優だと言えよう。とは言え、この“Viper Club”には、そういう瞬間があまりにも多すぎるのだ。」

“Viper Club” impresses in dealing viewers (and its heroine) a tough, uncompromising resolution. Still, the suspense that should have heightened the film’s impact is lacking due to the slowly paced, inward-looking drama.

「本作”Viper Club”は、妥協を許さない厳しい結論をもって、観客の(そしてヒロインの)心に何かを残す話である。その上でも、その遅すぎるペースと内省的過ぎる筋書きは、この映画にインパクトを持たせるはずのサスペンスを、充分に提供できていないのである。」

対岸の火事でも怖いものは怖い

我々、一般の日本人も外国へ出てしまえば、瞬く間に、自分の常識が全く通用しないという状況に置かれる事になります。

そんな時、予期しなかったような複雑な問題に、望まないながらも巻き込まれるかも知れません。

この映画は、ごく普通の市民が、そういった状況に巻き込まれた時、日常の生活がどう変容してしまうのかを描こうとした、意欲的な一作とも言えそう。

国際的な問題は、政府にとっても解決が難しいものです。

名女優スーザン・サランドンが本領を発揮するこの映画は、同時に、我々に安易な考えで危険な場所に近づかない様に促す、1つの警鐘でもあるかも知れませんね。

それではまたっ!

参照元
Detroit News
The Washington Post
The Seattle Times
Variety

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