2011年オスロの悲劇を描く映画「22 July」気になる海外メディアの評価とは?

惨劇のシンボリズム

9.11、11.22、3.22、10.01、、、

数字には、神秘的なパワーが有って、それが示す日付には歴史に残る大事件が勃発する。世の中には、そんな様な考え方をする人もいます。

まぁ、数字の超常的なパワーは別としても、何か事件を起こそうと思っている人間が、意味のありそうな日付を選んで計画を実行する、という事は充分に有り得るのでしょう。

今回は、そんな事が原因だったかも知れない、人類史上でも稀に見る凶行を取り上げた、映画『22 July』の評価をご紹介します。

たった1人の狂った憎悪が残した大きな傷

この作品のタイトルが示しているのは、2010年7月22日の事、つまり7.22です(ひょっとしたら、日本で付けられる題名はこれになるかも知れませんね)。

この日は、単独の犯行としては人類史上最大数の被害者を出した殺人事件が起きたという、誰の得にもならない称号を与えられた日。そして、その事件を引き起こしたのが、アンネシュ・ベーリング・ブレイビクという孤独な青年でした。

ブレイビクは、狂信主義者のご多聞に漏れず、幸福でない子供時代、青春時代を過ごしたと言われています。彼は、クリスチャン・シオニズムといったものを信じており、イスラム教徒、移民、そしてマルクス主義者に対する憎悪を募らせていました。

裁判の場で、ナチスの敬礼をして見せた事も有名ですが、一方、ステロイド剤を使用していた事が有るという話もあります。

とにかく、そんな男が、ノルウェーのオスロ近郊において、69人の無実の若者を含む総勢77人を殺害してしまったのが、2011年7月22日という日なのです。

まだ、事件時代の印象が生々しい内に映画化された事も、ちょっとした話題の種になる本作『22 July』、公開時にアメリカのメディアが寄せた評価は、どの様なものだったでしょうか。

予告編と作品基本情報

  • タイトル:
    • 22 July
    • 22 ジュライ
  • ジャンル:
    • 実話 / ドラマ
  • 日本公開:
    • 未定
  • 制作:
    • 2018年
    • Scott Rudin Productions
  • 監督:
    • ポール・グリーングラス
  • 脚本:
    • ポール・グリーングラス
  • プロデューサー:
    • クリス・カレーラス
    • イーライ・ブッシュ
    • グレゴリー・グッドマン
    • ポール・グリーングラス
    • スコット・ルーディン…他
  • 出演:
    • アンデルシュ・ダニエルセン・リー
    • ジョナス・ストランド・グラヴリ
    • ヨン・オイガーデン
    • セダ・ウィット
    • マリア・ボック
    • ソルビョルン・ハール…他

あらすじ

2011年7月22日の朝、アンネシュ・ベーリング・ブレイビク(アンデルシュ・ダニエルセン・リー)は、かねてから練っていた計画を実行にうつすべく準備をしていました。

今日彼は、子供の頃から彼を苦しめ傷つけてきた家族や周囲の人間、そして国家に対して宣戦を布告するのです。

大量の銃器をバッグにつめ、どこから手に入れたのか警官の制服を身にまとったブレイビクは、一台のバンをオスロ市内中心部へと走らせます。

彼が車を止めたのは、首相執務室や法務省が入っている政府機関ビルの正面。

そして静かにクルマを離れた彼がリモートのボタンを押すと、バンは大爆発を起こしました。この荷台には2,000ポンドを越える爆薬が積載されていたのです。

彼は、この襲撃で8人を殺害した後、武器を持ってすぐに別の車に乗り換えます。次の標的は、30キロ程離れた所に有るティーリフィヨレン湖に浮かぶ小島、ウトヤ島です。

この島には、彼が社会主義者によって運営されていると考えるサマーキャンプ場が有って、今まさに、多くの若者が集っているはずなのです。このキャンプは、ブレイビクにとっては攻撃対象でしかありません。

湖畔では、安全確保を命じられた警官だと偽り、まんまとウトヤ島に乗り込んだブレイビク。身分証の提示を求められた時、躊躇する事なく相手を射殺しました。そして、持ち込んだ銃を乱射し、総勢69人もの尊い命を奪ってしまったのです。

この時、ブレイビクの凶弾を受けた1人に、ヴィラール・ハンセン(ジョナス・ストランド・グラヴリ)がいました。彼もまた頭部に重傷を負いますが、奇跡的に命はとりとめます。

テロリストであるブレイビクは、その後、島に突入した特殊部隊に制圧され逮捕されます。その後、常軌を逸したこの男の裁判をめぐっては、ノルウェー国内が大きく揺れ動く事になりました。

この男は精神を病んでいるのか、それとも、純粋に邪悪な人格の持主なのか?

ブレイビクを弁護する事になったゲイル・リッペスタッド(ヨン・オイガーデン)の下には、この犯人に対する怒りを煮えたぎらせた人々から、殺害を予告する脅迫状が届き始めます。

そんな中、ウトヤ島で重症を負ったヴィラ―ルは、複数回の大手術と厳しいリハビリを乗り越え、ブレイビクを追求する裁判の証人台に立とうとしていました・・・

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映画『22 July』気になる現地メディアの評価(レビュー)は?

テロ事件などのドラマ化は、社会派で意識の高い映画ファンから関心を引きやすく、おそらく、評価も受けやすいので、プロデューサーとしても資金が集めやすいものかも知れません。

とは言え、題材がリアルな傷跡を扱う関係上、その脚色にあたっては、充分な配慮とセンスが要求されもするでしょう。

そんな映画の1つである、この『22 July』のメガホンを取ったのは、あの、ポール・グリーングラスという事で、各メディアの批評ライター達も、ある程度の期待と共に試写会へ出向いたのじゃないかと思います。

そんな作品についての評価を、4つチェックして行く事にしましょう。

評価1:対比的な描写の芸術性

先ずは、The Seattle Timesからの評価です。

感情を嫌な形で刺激する上に、良識や思考では処理しきれない理解不能な事件を扱うのが、この『22 July』の様な映画です。

とは言うものの、これが商業映画である以上、観客を呼び込めるだけの演出が必要な事もまた事実。

ここでは、監督のポール・グリーングラスが、その辺りをどうこなしたかなどについての、批評となっています。

【The Seattle Times】

‘22 July’: a powerful dramatization on 2011 Norwegian massacre

「“22 July”は、2011年ノルウェーで起きた大量殺人をパワフルにドラマ化した。」

Greengrass is on the most slippery of slopes here — showing a mass murderer’s violence without glorifying it and letting the gunman explain himself without feeding supremacist hatred. He threads the needle brilliantly.

「今回、監督のポール・グリーングラスは、過激主義者への憎悪を掻き立てる事も避けつつ、また、大量殺人のバイオレンスへの賛美にならない形で、銃撃犯には自分自身の事を語らせるという、言わば、もっとも滑りやすいスロープの上に立つような事をやってのけている。監督は、こういった問題を実に聡明に切り抜けているのだ。」

Greengrass is known for employing a shaky cam and rapid-fire editing and those techniques are perfectly suited for examining this real, frightening moment.

「グリーングラス監督は、不安定なカメラとテンポ良い編集で知られる人物であり、そういったテクニックは、現実に起きた恐ろしい瞬間を描く本作には、完璧にマッチしていると言える。」

The writer-director shows real artistry in framing both the gunman (a frightening Anders Danielsen Lie) and his victims as opposites. The opening sequences show Breivik alone and silent, preparing his attack with icy precision. His soon-to-be victims at a summer camp, meanwhile, are laughing, hugging and clumsily putting up tents. Later, Greengrass will highlight the gunman’s fate — a closed cell in artificial light — while the survivors are outside in twilight, the camera spinning 360-degreees to show the glorious Norwegian snowy landscape.

「この監督兼脚本家は、銃撃者(不気味に演じるのはアンデルシュ・ダニエルセン・リー)と、それに相対する被害者を同時に映像に収める事に、実に芸術的な手腕も見せている。オープニングの場面では、冷たい精密さで襲撃の準備をする犯人のブレイビクを、沈黙の中でただ一人描いてゆく。一方では、彼の犠牲となるべき人々を、慣れない手つきでテントを張りながら、笑いあいハグしあうサマーキャンプの場面に描写する。そして後々には、人工的な灯りに照らされた監房の中の銃撃者と、夕刻の屋外にいる事件の生存者達を対比させて見せながら、360度回転させたカメラにより、ノルウェーの壮麗なる雪景色を表して見せるのだ。」

評価2:作品を支えるいくつかの目線

次は、The New York Timesの評価です。

こちらでも、問題となる題材の描き方、そして、絶対に必要な犯人役のアンデルシュ・ダニエルセン・リーが見せる存在感などについて、批評が書かれています。

【The New York Times】

Looking Anew at a Norwegian Massacre in ‘22 July’

「“22 July”は、ノルウェーの大量殺人に新たな視点を与えるものだ。」

Paul Greengrass’s latest, “22 July,” recreates the massacre and its aftermath. Fiction that hews close to fact, the movie is serious and meticulous, yet hollow.

「ポール・グリーングラスによる最新作“22 July”は、大量殺人事件を構成し直しつつ後日談も描くものだ。実話に肉薄する内容のフィクションである本作からは、シリアスで細やか、それでいて空虚感も漂ってくる。」

Beginning with the assault carries some risks simply because it could turn you off right from the start. It also means that Breivik — his plan, inscrutable face and horrifying actions — immediately takes over the movie, making him its focus and most obvious reason for being. At the same time, because Greengrass frontloads the story in this manner, he doesn’t build to the massacre, an approach that might (as is too often the case) turn horror into the narrative climax. Instead, he gets the bloodshed out of the way, showing that his interest lies elsewhere

「殺人を冒頭に配置するという事は、単に観客の気が開始直後に萎えてしまうという意味で、いくつかのリスクを負っていると言える。同時にそれは、犯人のブレイビクを(彼の計画、謎にみちたその表情、そして恐ろしい行動も含めて)、即座に映画の主役としてしまう事にもつながる。彼を焦点の中央に置いて、作品の主要な存在意義としてしまうかも知れない。そんな中、ストーリーにそういった前置きをする手法を取った後、グリーングラス監督は、(非常に多くの場合はそうなるが)恐ろしい出来事を筋書き上のクライマックスとするアプローチをとらず、これを殺人事件だけを描く作品とはしていない。代わりに彼は、この虐殺事件を舞台から退かせる事で、別の問題に目を向けている事を示すのだ。」

Best known for his sensitive performances in movies by Joachim Trier, including “Oslo, August 31,” Lie does what he can with a role that doesn’t call for much introspection. Even so, his is the most nuanced and convincing performance by far in the movie, which means that Breivik becomes the character we most want to see.

「ヨアキム・トリアーによる“オスロ、8月31日”などでの、感受性有る演技が最も有名な俳優アンデルシュ・ダニエルセン・リーは、この、さほどな内面描写を必要としない役どころに、可能な限りの事を込めている。そういう状況であっても彼は、本作内で断然ニュアンスと説得力を持つ演技を提供しているのだ。それは、この中で犯人ブレイビクこそが、最も関心を集める存在である事も意味する。」

評価3:ただ断罪するだけでは終わらない

3つめは、CNNが本作に寄せた評価です。

21世紀になって増加している様に思える、こういったテロリズム的な事件は、単純に法律の裁きを下すだけでは解決しない、複雑なものとなってきているのも事実です。

当然、そういった題材を描く映画にも、それが起きた背景なども含めて、多角的な扱いが必要な訳ですが、ここでは、本作のそんな点についての評価が書かれています。

【CNN】

’22 July’ captures horror of extremism, and hope in its aftermath

「“22 July”は、過激主義者の恐怖と共に、その襲撃の後日には希望をも見出そうとする。」

Paul Greengrass’ gritty, live-wire directing style is something of a trademark, and it’s put to efficient use in “22 July,” a layered, dense look at the savage terrorist attack that rocked Norway on that date in 2011. Telling the story from multiple angles, Greengrass’ spare, sobering film — premiering simultaneously in select theaters and on Netflix — seeks and mostly succeeds in highlighting extremism while finding humanity and resolve within the grief and chaos.

「ポール・グリーングラスにとって、精力的かつ果敢に攻める演出スタイルは、一種のトレードマークと言って良いだろう。そして、2011年のあの日に発生し、ノルウェーを震撼させた惨酷なテロ攻撃を、多層的かつ濃密に描く映画“22 July”では、その手法が効果的に活かされているのだ。グリーングラスは、1つの出来事を複数の角度から語る事で、この(Netflixと限定劇場で同時にプレミア公開された)飾らず真摯な作品で過激主義を取り上げながら、同時に、悲しみと混沌の中で見られる人間性や救いも描こうと試み、かなりな部分でそれに成功しているのだ。」

Greengrass is something of a master of fact-based disaster. The challenge here is to make the movie more than just a grisly reenactment of those events or to glorify the lone-wolf perpetrator. Those issues remain open to debate, but “22 July’s” no-frills approach sustains the various plots, while engaging in a thoughtful discussion about how to process such events,

「グリーングラス監督は、現実に発生した惨劇を題材にする達人、とも呼べるだろう。本作における課題は、そこに扱う出来事を残酷に再現する事や、この単独の襲撃犯を賛美する以上のものとする事だ。この出来事は未だにディベートの対象でもあるが、本作“22 July”が取った余計なものを省くアプローチは、このような事件がどう扱われたかについての、思慮深い考察にも触れつつ、さらに多様なプロットも支えている。」

Ultimately, “22 July” doesn’t offer any easy answers, though it does find a ray of hope, delivering the not-so-subtle message that such extremists can only win if we let them.

「そこに、過激主義者が勝利するのは我々がそれを許す時だけだ、と言う、曖昧ではないメッセージと共に一筋の希望の光を与えながら、結局のところ本作”22 July”は、安直な答えを提示する事もない映画となっている。」

評価4:癒えない傷を再び

最後は、Boston Heraldが寄せた評価をご紹介します。

おそらく、どこかの中学校で行われるつまらない社会科の授業で、2011年ノルウェー大量殺戮事件の事を教えられても、生徒の頭にはほとんど何も残らないでしょう。

一方、ハリウッド界隈で出資金を集めて一流監督によりそのエピソードをドラマ化すれば、世界中で数千万人の人の心を容易に動かす事が可能です。

だとしても、実際の事件で命を落としたり傷を負った人々の事を、商業映画として都合よく描いているというのも1つの事実。

こちらは、現実の事件が残した痛みとドラマとの関係に触れた、批評記事となっています。

【Boston Herald】

‘22 July’ reveals pain of Norway terror attack

「映画“22 July”は、ノルウェー大量殺人の痛みを露わにする作品だ。」

Writer-director Paul Greengrass, of “United 93,” “The Bourne Supremacy” and “The Bourne Ultimatum” fame, returns to a real-life event in the gut-wrenching “22 July,” a fictionalized account of the 2011 lone wolf terrorist

「“ユナイテッド93”、“ボーン・スプレマシー”そして“ボーン・アルティメイタム”で好評を博した、脚本兼監督のポール・グリーングラスは、この“22 July”という衝撃作で、再び実際に起きた出来事を取り扱う。これは、2011年に単独のテロリストが起こした犯罪のドラマ版である。

One might argue that “Bloody Sunday” (2002), the film that put Greengrass on the map, was the chronicle of a historical event, the 1972 massacre of Irish protesters by British troops in Derry, Northern Ireland. Greengrass’ “United 93” (2006), a film about the 9/11 attacks, and now “22 July” on the other hand, have come much closer to the actual events, when the real and psychic wounds are much fresher. This has made these films more difficult for me to sit through, frankly.

「1972年に北アイルランドで起きた、英国兵士によるアイルランド活動家の惨殺事件を描きグリーングラスを有名にした、2002年作品“ブラディ・サンデー”は、歴史上の出来事を記録しただけのものだという主張も有るだろう。ただ、9.11テロを描いたグリーングラスの別作品“ユナイテッド93”、そしてこの“22 July”は、現実的および心理的な傷が癒えていない内に、実際に起きた事へさらに踏み込んで行くと言う手法の映画となっている。正直言って個人的には、このような映画を最後まで見続けるのは困難さえ感じるものだ。」

それでも対岸の火事・・・

人は誰しも、内面に非合理性や破壊性を持っています。

それが、心的トラウマや外から受けるストレスとどう結びつくかによって、その人が正常の範囲に留まれるか異常になるかが、決まって来るのかも知れません。

自分の事を振り返って思うのは、内向的な人間の場合、考えが1つの事に帰結すると、外部からの影響を排除しながらひたすらそれを強化し続けてしまう傾向が有るという事。そして最終的には、救われない状況へ自分を押し込んでしまうのです。

だとしても、その人が異常な行動を取ると言う事には直接つながりませんが、その傾向が強い人は、どの国にいっても結構な人数いるでしょう。

そうやって鬱積(うっせき)したものが暴発する可能性は常に有ります。例えば誰かに言われた嫌味や、自分の車の進路を邪魔する遅い他車でも、凶行に走らせるトリガーに十分成り得るのです。

そんな不満の爆発が、最悪の形で現実となった実際の事件を取り扱うこの映画、考え様によっては、誰の身にも起こり得るリアリスティックなホラーの1つ、とも言えると思います。そんな事を考えてしまいました。

それではまたっ!

参照元
The Seattle Times
The New York Times
CNN
Boston Herald

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