命と尊厳のドラマ:映画「The Hate U Give」海外メディアの評価とは?

16歳の少女が直面するアメリカの今

国内のメディアが上手くまとめた報道では、なかなか肌感覚が伝わらないアメリカの人種差別問題。

その現実を、ドラマという形で我々に伝えてくれる、そんな印象なのが、今回ご紹介する映画『The Hate U Give』です。

1人のアフリカ系アメリカ人少女が、人種対立の渦中へ放り込まれる姿を描くストーリ、その作品に、現地アメリカメディアが与えた評価をご紹介します。

原作は新人女流作家のベストセラー

2009年の年明け早々、カリフォルニア州オークランドで黒人青年オスカー・グラントが、無抵抗の状態ながら警官に射殺される事件が起きました。

当時、ベルヘブン大学の学生であったアンジー・トーマスはこれに衝撃を受け、その時取り組んでいたストーリーライティングの課題に、この件を取り入れようと思いつきます。

当初は短編小説の形であったストーリーは、彼女が大学を卒業後に加筆され、『The Hate U Give』という題名の長編小説として完成したのです。

彼女にとって処女作となったこのストーリーは、2017年の2月に出版された後、直ぐにThe New York Timesの書籍ランキングYA部門でベストセラーとなり、その状態を50週間キープ、いくつもの賞を受賞する事となります。

そして、あれよあれよと言う間に映画化が決定した本作には、制作段階において、トーマス自身もエグゼクティブプロデューサーとしてプロジェクトに参加。つまり、彼女が物語に込めたコンセプトは、スクリーン上でもしっかりと再現されていると考えて良いでしょう。

多民族主義の先進国であるはずの米国が、未だに克服できない問題を直視するストーリー。公開時にアメリカの各メディアはどのような評価をが寄せたのでしょうか。

予告編と作品基本情報

  • タイトル:
    • The Hate U Give
    • ザ・ヘイト・U・ギヴ
  • ジャンル:
    • ドラマ / シリアス
  • 日本公開:
    • 未定
  • 制作:
    • 2018年
    • Fox 2000 Pictures
    • State Street Pictures
    • Temple Hill Entertainment
  • 監督:
    • ジョージ・ティルマン・ジュニア
  • 脚本:
    • オードリー・ウェルズ
  • プロデューサー:
    • ティモシー・M・バーン
    • アイザック・クラウスナー
    • アンジー・トーマス
    • ジョージ・ティルマン・ジュニア…他
  • 出演:
    • アマンドラ・ステンバーグ
    • アルジー・スミス
    • ラッセル・ホーンズビー
    • レジーナ・ホール
    • ラマー・ジョンソン
    • T.J.ライト
    • イッサ・レイ
    • アンソニー・マッキー
    • K.J.アパ…他

あらすじ

メイヴリック(ラッセル・ホーンズビー)は、自分の子供達が小さい頃から、道で警官に呼び止められた際の行動について、繰り返し言い聞かせてきました。

何故なら、彼らアフリカ系アメリカ人が警官の前で不用意な行動を取ると、本当に命取りになるからです。

若い頃は、ブラックパンサー党の先鋭的な思想に傾倒したりしたメイヴリックですが、今は雑貨点を営みながら、妻のリサ(レジーナ・ホール)と共に、息子2人、セヴン(ラマー・ジョンソン)とセカニ(T.J.ライト)、そして16歳になる娘スター(アマンドラ・ステンバーグ)の人生をより良くする事に力を尽くしています。

夫婦が、スター達を通わせる事を決めたのは、街の反対側にある高校でした。彼らが住むこのガーデン・ハイツは、住民の大半が低所得者で治安も悪く、地元の高校に通わせる事は子供に良くない影響しか与えないと考えたからです。

スターの通うウィリアムソン高校は、学生の多くが富裕者層の子供であり、白人も黒人も共に勉強しています。そんな中の彼女は、自分の家柄を友人に知らせないために、同じ年ごろの子供がするようにヒップホップのスラングで気取ったりもせず、節度のある言動を保つよう気を配り続けているのです。

そして、一度ガーデン・ハイツへ戻れば、この土地の階層に馴染むように振る舞うスター。そんな風な、言わば2重生活を送るのは、16歳の少女にとっては精神的負担です。

さて、地元のちょっとしたパーティに友人と出向いたスターですが、そこで懐かしい人と再会します。それは、幼い頃はとても親しくしていた男の子、カリール(アルジー・スミス)。

そしてその夜、悲劇が起きました。

その夜、パーティから抜け出した後、カリールはスターを車で家まで送ると申し出ます。しかしその道中、何故かパトカーに止められた彼の車、警官が言うには、テールランプが切れているとの事です。

スターは、父親の教え通りに自分の両手を見える場所に置きます、しかしカリールは違いました。彼は、車外で質問を受けている最中に不用意にも、何気なく車内へ手を伸ばしたのです。その瞬間、それを誤解した警官により、彼は射殺されてしまいます。

もちろん、カリールは武器等を持っていませんでした。

この事件は、地元に大騒ぎを引き起こします。そして、現場を第3者として唯一目撃したスターには、様々な立場の大人から無数の言葉や意見が投げかけられるようになります。

黒人の尊厳を守る運動をしているオフラ弁護士(イッサ・レイ)は、理由も無く市民を殺害した警官を訴追するために、裁判で彼女に証言して欲しいと依頼してきますが、スターの叔父であり警官でもあるカーロス(コモン)は、警官が武装していない市民を射殺しても正当だと認められるものだと、スターが証言をしないよう説得を始めます。

更に危険なのは、カリールの雇い主であった麻薬ディーラーのキング(アンソニー・マッキー)が、裁判などで自分の商売にとばっちりが及ぶ事を恐れ、スターに圧力をかけてきている事です。

波風を立てないためには、証言も断って沈黙する事が良い事は分かりますが、それでは、自分が心を寄せていた男の子の死が、完全に無駄になってしまう。

純真な16歳の女子高生の心は、強い葛藤で翻弄されます。はたして、スターはどんな道を選ぶのでしょうか?

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映画『The Hate U Give』気になる現地メディアの評価は?

予告編映像自体も、かなりインパクトがあるものにまとめられているのが、この『The Hate U Give』だと思います。

同時に、愛らしさと強さ、そして感情性を併せ持つ、アマンドラ・ステンバーグの存在感も強く伝わるのもこの作品でしょう。

映画としては、とても深く繊細な問題を扱うものだと思うのですが、日本に輸入される段になって、いつも通りのお涙頂戴的なプロモーションになってしまわないか、ちょっと心配ではあります。しかしまぁ、そんなのも余計なお世話なのでしょう。

さて、世界を動かす力さえ秘めていそうなこの映画、公開直後に本国アメリカでは、どのような評価を受けていたかチェックして行きましょう。

評価1:社会の重い問題をYAの目線で直視する

まず、Los Angeles Timesが寄せた評価からご紹介します。

そのタイトルからして強烈で、先鋭的な善悪の論理を謳いながら、観客の感情だけを刺激する映画にも思えるのが本作でしょう。

しかし実際には、そのテーマの中に描く一つ一つのアイテムが、とても効果的にまとまった質の高い映画であるようです。

こちらでは、この『The Hate U Give』が持つ映画的パワーについて、批評が書かれています。

【Los Angeles Times】

The Hate U Give’ powerfully uses the Young Adult genre to explore issues of race and social justice

「“The Hate U Give”は、人種問題や社会正義の問題を明らかにするヤングアダルト小説を、パワフルに映画化した作品である。」

Young Adult novels are the hottest thing in publishing, and not necessarily because teens love to read. Fully grown adults are drawn in as well because the genre at its best can make difficult issues accessible without sacrificing honesty, emotion and truth. Which is why, its high school setting notwithstanding, the film version of “The Hate U Give” is a moving, emotionally convincing experience.

「出版界において、ヤングアダルトものは最も熱い分野だろう。それはティーン達が好んで読むからという理由だけではない。最良に書かれたこのジャンルのものは、正直さや感情、そして真実などを犠牲にする事なく、世の中の難しい問題に触れる機会を与えるという意味で、成人したアダルト層も十分に引き込んでいるからだ。その事情は、“The Hate U Give”の映画化版である本作がハイスクールを舞台しているにもかかわらず、感動的で、感情面の説得力も持ち得ている事の理由ともなっている。」

Though Thomas was a debuting novelist, the key creative personnel behind “Hate” — director George Tillman Jr. and screenwriter Audrey Wells — are experienced filmmakers who know how to involve an audience, and they’ve benefited from an exceptional performance by Amandla Stenberg in the leading role.

「原作者アンジー・トーマスにとっては本作がデビューとなるが、監督のジョージ・ティルマン・ジュニアと脚本家オードリー・ウェルズら、この映画の後ろ盾になっているクリエーター達は、いかに観客を引き込むかを熟知した映画製作者である。同時に彼らは、ここで主演の少女を演じるアマンドラ・ステンバーグが見せた、特筆すべき演技からも恩恵を受けている。」

This process of finding out who you are and what matters in your life could have been pro forma, but in the hands of Tillman, Stenberg and the rest of the “Hate U Give” team, it does not play that way. More disturbing than you expect, its story of innocence lost and perspective gained holds us and will not let go.

「ここで描かれる、自分自身を見つけ、人生の意味を知るというプロセスは、形式だけで描かれてしまう可能性も有っただろう。しかし、監督のティルマン、主演のステンバーグ、そして、この映画“The Hate U Give”に関わったクルーらの手により、本作には違った方向性が与えられた。それは、予想するより我々の心を乱し、失われた純真さの代わりに得られた新たな見地を描くそのストーリーは、我々を掴んだまま決して離す事は無いだろう。」

評価2:ヘビーで重要そして必要な内容が込められた物語

次は、Chicago Tribuneが載せた評価です。

アンジー・トーマスは、自分がただ怒りに任せて書いているのではない事を確かめるため、一時期、この小説の執筆を止めていたそうです。

こういったストーリーを、製作者が感情だけを原動力に作り上げると、一時的には一部の観客に訴求するかも知れませんが、最終的にはあまりきれいな名前を映画史に残さないのじゃないか、と思ったりします。

こちらの批評でも、ヘビーなテーマを与えられた本作に与えられた力強さと、そこに組み入れられた映画としての質について書かれています。

【Chicago Tribune】

A Starr is born, thanks to Amandla Stenberg and a YA adaptation that speaks to our time

「新たなスターの誕生、時代に語り掛けるYA小説の映画化と、光るアマンドラ・ステンバーグの演技」

Just as Angie Thomas’ debut novel “The Hate U Give” was good enough to transcend the conventional YA parameters, director George Tillman Jr.’s fully packed film version has the stuff to pull in all sorts of audiences.

「アンジー・トーマスが執筆した“The Hate U Give”自体が、ヤングアダルト小説のレベルを超越するに十分なものであったのと同様に、今回、ジョージ・ティルマン・ジュニアがメガホンを取り、濃密な中身を詰め込んで映画化したバージョンもまた、あらゆる層の観客を取り込む内容を持つものとなった。」

“The Hate U Give” becomes the story of how one teenager must choose between keeping her head down, or holding it up and seeing everything, and then putting a voice to what she sees. The side characters don’t feel like side characters, because the book and the movie both take the time to make everybody interesting, with plausibly clashing points of view.

「この映画“The Hate U Give”は、1人のティーンエージャーが、ただうずくまってやり過ごすのか、顔を上げ全てを見渡し考えを表明するのか、その決意を迫られるというストーリーである。そして、登場する脇役達も脇役とは感じさせない、何故なら原作とこの映画版共々に、全ての人物像に調和だけを求めない視野をしっかり与える事で、彼らを興味深く描写するための時間を割いているからである。」

It’s a heavily plotted piece, running a bit over two hours. But all of it feels necessary and vital.

「本作は、重たい程のプロットを2時間超えという長尺に収めた映画だ。それでも、全てに必要性と重要性が感じられる一作なのである。」

評価3:悲劇を乗り越えた少女が手に入れるもの

最後は、The Washington Postからの評価をご紹介します。

日本のメディアも、時折、外国の少女活動家の姿を、美談の中で簡単にフィーチャーしたりしますが、フィクションでも実話であっても、たかだか16歳の少女に群集を扇動する役目を負わせる事自体、ある種の悲劇のような気がします。

こちらの批評では、本作の映画としての質に加え、主人公の女の子の置かれた辛い状況についても、少し触れています。

【The Washington Post】

‘The Hate U Give’ is a powerful look at Black Lives Matter — and an essential movie for 2018

「映画“The Hate U Give”は、力強くブラック・ライブズ・マター運動を見つめる、2018年にとって極めて重要な映画である。」

Like hurricane winds, the vortex of psychological forces buffeting the calm-eyed 16-year-old at the center of “The Hate U Give,” played by a remarkable Amandla Stenberg, at times seems violent enough to tear apart a grown man. Having witnessed the shooting death of her childhood best friend (Algee Smith of “Detroit”) — during the kind of routine traffic stop gone wrong that has become distressingly familiar from viral videos — Starr is pushed and pulled in multiple directions over the course of this powerful, timely and deeply moving tale.

「アマンドラ・ステンバーグが素晴らしく演じている、この映画“The Hate U Give”の中心にいる澄んだ瞳の16歳の少女を、まるでハリケーンの暴風が如き心理的影響力の渦が翻弄する。その様子は、しばしば大人の男性の心さえ引き裂く程に残酷だ。悲しい事に今や動画共有サイトで頻繁に見られるようになった、悲劇に転じてしまう通常の職務質問の1つの最中に銃殺される、幼馴染み(“デトロイト”のアルジー・スミス)の姿を目撃した少女スターは、パワフルかつタイムリーで深く心に響くこのストーリーにおいて、様々な方向へ振り回される事となって行く。」

Impeccably directed by George Tillman Jr. and based on the acclaimed young adult bestseller by Angie Thomas, “Hate” defies expectations at every turn.

「映画としてはジョージ・ティルマン・ジュニアにより、申し分の無い演出が与えられ、期待の小説家アンジー・トーマスの作品を原作としたこの映画は、全ての場面展開において期待を裏切ってみせるだろう。」

If the movie ends on a hopeful note — and it does, delivered in a starmaking speech by the film’s young heroine, who finally finds her voice despite a maelstrom of competing words — it is one that lingers in the air with the somberness of a gospel choir at the funeral of a child.

「そして、襲い掛かる幾多の声を制し、ついに自身の言葉を見出した本作の若きヒロインが、スター俳優としての力量を示すスピーチの場面で与えるような、希望的雰囲気の中でこの映画が終わっているとしても、それは、子供の葬式に集ったゴスペル隊の歌声と同じく、大気中にはかなく共鳴するものとなるのだ。」

刷り込まれた憎悪と嫌悪感

アンジー・トーマスを触発したという、オークランド黒人青年射殺事件の動画を見ると、最初に問題を起こしたと思しき男性数名と、それを取り押さえようとする警官達の周囲を、かなりな人数が取り囲み、やじうまの中には警官を挑発するような行動を取る人物も見受けられます。

だから少なくとも、現場においてこの警官達は、かなりなプレッシャーと恐怖感を味わっていたはずです。

警官と言えども、無抵抗な被疑者を射殺する権利は無く、実際、ここで発泡した男性警察官は過失致死罪の判決を受け服役しています。

この判決の正当性はともかく、この動画を見て感じるのは、双方の間に古くから横たわる不信感と憎悪が、最悪の形で刺激され、この悲劇を生んだのだろうという事。

そういう深い所に根付く感情的な先入観の影響で、人は時として、殺し合いさえ始めるものなのです。

そして、政治・宗教などの扇動家やメディアが、民衆の行動を操るために利用するのも、こういった感情の部分です。

この事件の現場にいあわせた全ての人の心理の深い所に、そうやって刷り込まれた負の感情が累積していただろう事は、想像に難くありません。

日常で、少しずつインプラントされる印象や感情は、人間にとって最も影響力を持つもの。

だから、ひとつの問題について、周囲の風潮やメディアの報道姿勢、あるいはグーグルの検索1位に書いてある内容だけを見て、一方向から安直に判断してしまう事が、実は一番怖い事でもあります。

個人的には、この映画『The Hate U Give』の周辺事情からは、そんな事を考えされられましたが、いかがでしょうか。

それではまた〜。

参照元
Los Angeles Times
Chicago Tribune
The Washington Post

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