ゴシックホラー映画「The Little Stranger」気になる海外メディアの評価とは?

歴史の節目に姿を現す亡霊達の影

古い国の古い土地、そこに建つ古い家と、そこに住む古い家族。もし、これだけの条件が揃ったら、そこに、曰く因縁の1つや2つは必ず見つかるはず。

そんな風な、いわば勝手なステレオタイプに乗じて作られる心霊ゴシックホラーの1つが、今回ご紹介する映画『The Little Stranger』です。

とは言え、幽霊映画好きな連中の関心だけを引いて上手く収益を上げよう、というような下世話なものではなく、しっかり考えられたペース配分とストーリーテリングで楽しませてくれる映画、本作はそんな一本となっている様です。

今回は、その重々しく神秘的な印象も伝わるゴシックホラー映画『The Little Stranger』の評価をご紹介します。

同名の小説が原作

この映画、ウェールズ生まれの女流小説家サラ・ウォーターズが2009年に発表した同名小説(邦題では『エアーズ家の没落』)が原作です。

この小説に、The New York Timesが寄せた書評をかいつまんでご紹介すると、以下の様なものになります。

サラ・ウォーターズ5作目となる『エアーズ家の没落』は、イングランドの田舎ウォリックシャーと1947年という時代を舞台にして、読む者には、終戦直後の不安定感を見事に喚起させるという一作である。(略)その後に展開するものが、心霊話なのかスリラーなのかは、読者の読み方によって違ってくるだろう。

サラ・ウォーターズは、非常に描写が上手い作家であり、本書もまた信じられない程読みやすく釘付けにする小説である。だとしても、彼女のそのスキルがここではマイナスに働いてもいる。ここで彼女が魅力的に書き上げたエアレス一家は、同時にリアルな存在感も有るだけに、読者は彼らが恐ろしい運命に見舞われる事を受け入れ難くもなってしまうのだ。

もし、死というものが全てに向けられる無情な宣告で、かつ、小説の中では単純な要素でしかないのなら、これを読んだ人間は、エアーズ家の面々が物語の展開と社会の変革という理由だけにより殺されたという、有り難くない感覚を味わう事になる。いずれにせよ、すっきりしない感覚ではあるだろう。

古い館を舞台に、移り変わろうとする時代性、そして超自然現象の気配を上手く組み入れて、かつて繁栄した一族の没落を悲しく描いたのが、この物語という事でしょうか。

今回ご紹介する映画版の方も、ウォーターズが書き上げた基本プロットを踏襲しつつ、ホラー映画としての映像描写なども賢く盛り込んで作られている様です。

さて、公開時にアメリカのメディアが載せた評価は、どの様なものだったでしょうか。

予告編と作品基本情報

  • タイトル:
    • The Little Stranger
    • ザ・リトル・ストレンジャー
  • ジャンル:
    • オカルト / ホラー
  • 日本公開:
    • 未定
  • 制作:
    • 2018年
    • Pathé
    • Canal+
    • Film4
    • Irish Film Board…他
  • 監督:
    • レニー・アブラハムソン
  • 脚本:
    • ルシンダ・コクソン
  • プロデューサー:
    • アンドリュー・ロー
    • ダニエル・バットセック
    • キャメロン・マクラケン
    • ティム・・オシェイ…他
  • 出演:
    • ドーナル・グリーソン
    • ルース・ウィルソン
    • シャーロット・ランプリング
    • ウィル・ポールター
    • ジョシュ・ディラン
    • ケイト・フィリップス…他

あらすじ

第二次世界大戦が終結して間もない、1948年の夏。医師ファラデー(ドーナル・グリーソン)は、イングランド中部にあるウォリックシャーを訪ねていました。

実は、この土地に仕事が出来たのは、彼にとってはとても偶然な事でした。ウォリックシャーは彼にとって少年期の思い出の場所だったのです。そればかりか、これから訪ねようとしている豪邸は、彼の母親がかつてメイドとして働いていた、あの『ハンドレッズ・ホール』。

子供ながらに、屋敷の荘厳さに心打たれ強い印象を抱いていたファラデー、しかし、約30年が経過して再び訪れたハンドレッズ・ホールは、老朽化が激しい古い屋敷と化していました。

ファラデーは、この屋敷で今唯一働いているメイド、ベッティ(リヴ・ヒル)の健康状態を見るためにやって来ました。彼女は腹痛を訴えているとの事です。

現在、エアーズ家は最年長の夫人(シャーロット・ランプリング)と、既に成人している彼女の子供達、息子ロデリック(ウィル・ポールター)と娘キャロライン(ルース・ウィルソン)の3人となっています。ファラデーが少年自体に出会ったもう1人の娘スキは、子供の頃に他界していました。

当初、メイドの治療をしに来ただけのファラデーですが、実はロデリックが大戦で戦ったパイロットで、戦闘中に酷いやけどを負っており、それが今でも肉体的・精神的負担となっている事を知ると、彼のケアもする事にしました。

さて、そんな風に思い出のハンドレッズ・ホールで治療に当たるファラデーに、ベッティが変な事を言ってきました。「この家の中では、何か不気味な事が起きているのです。」

どうやらそれは、超自然的な現象の事を指して言っている様なのですが、医師であり現実主義者のファラデーは、当初まともに取り合いませんでした。

しかし、この家族と屋敷そのものが発する陰鬱なムードの影響なのか、ファラデー自身も妙な気配を感じたり、居るはずの無い人影を目撃する様になって行きます。

そして、常識では絶対に起こるはずのない怪奇現象を目の当たりにする段になって、彼自身もまた、自分がこの屋敷内の魔界に取り込まれた事に気づきます。

はたして、彼とエアーズ一家が目撃しているものは、本当の心霊現象か、あるいは集団幻覚なのでしょうか?

それは、過去にこの世を去ったスキの亡霊からの、何等かのメッセージだとでも言うのでしょうか?

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映画『The Little Stranger』気になる現地メディアの評価は?

時代がかった背景の中で、ゴシック調の心霊現象を描く映画に求めたいものと言えば、やはり、子供向けのホラーにはない(米国のレーティングで本作はR指定)趣きやムードという事になるでしょう。

そういった中にも、娯楽映画として必要なアイテムをいかに組み入れているか、などが、ホラー映画ファンとしても気になる所だと思います。

まぁ、監督を務めたレニー・アブラハムソンは、先進国の中でも最も霊界に近い国の1つ、アイルランド出身という事で、マーケティングの拝金主義に濁らされていないスピリチュアルな目線で、この物語を捉えてくれているはず。

そんな風な演出手法についても含め、本作『The Little Stranger』に向け各メディアが寄せた評価を、チェックして行く事にいたしましょう。

評価1:ゆっくりと近づく恐怖感

先ず最初は、The New York Timesからの評価です。

もちろん、21世紀のホラー系商業映画としては、ノンストップで加速する、分かりやすい恐怖を伝える事も必要なのかも知れません。

しかしそれは、観客の印象に残らない事を目的にした様な、軽々しいB級ホラーでの話。

ゴシック映画である、この『The Little Stranger』では、しっかりと鑑賞できる物語と描写が求められるでしょう。ここでは、本作について、そう言ったペース作りなどについての論評となっています。

【The New York Times】

In ‘The Little Stranger,’ a Haunted House and a Fading Way of Life

「“The Little Stranger”は、心霊現象の屋敷と衰え行く過去の栄華を描く。」

Directed by Lenny Abrahamson (“Room”) and adapted by Lucinda Coxon from Sarah Waters’s skillfully written Gothic novel, “The Little Stranger” is for much of its running time more interested in the sociological and psychological implications of Faraday’s encounter with the Ayreses and their real estate than with any overtly supernatural doings.

「サラ・ウォーターズが巧みに書き上げたゴシック小説を原作に、ルシンダ・コクソンが脚本を、レニー・アブラハムソン(“Room”)が演出をして作られた、本作“The Little Stranger”は、はっきりとした超常現象の数々よりも、むしろ、(主役の)ファラデー医師とエアレス一家の間に存在する、社会学的・心理学的な裏の関係性を見つめる事に、その上映時間のかなりな部分を使っている。」

There are a few jump scares and shocking images, but Mr. Abrahamson lets the dread build slowly, nudged along by Stephen Rennicks’s mournful, eerie score and Ole Bratt Birkeland’s brown-shadowed cinematography.

「そこに、飛び上がらせる様な恐怖場面や、ショッキングな映像がいくつか存在してはいるものの、ステファン・レニックスによる悲し気で不気味な音楽と、オレ・ビルケランがブラウンの陰影と共に収めた映像などを利用して、アブラハムソン監督は恐怖感自体を徐々に盛り上がるよう演出している。」

As is usually the case in movies like this, the answer is not quite as intriguing as the queasy guesswork that precedes its revelation. But the ending is less of a letdown than it might have been, and the final shots are potent and provocative, sending you back over what came before with new ideas and questions.

「本作の様な映画が通常見せる通りに、謎解きの段階で与えられる答えは、そこまでの段階で我々が行う不安に満ちた推測程には、興味深いものとなってはいない。とは言え、エンディング場面は、落胆を与える可能性が有ったにしてはかなり良く作られている。そして、最後の映像は刺激的であり我々を納得させるもので、新たな疑問と考えを伴ないつつ、そこまでで感じた世界へあなたを引き戻すだろう。」

評価2:恐怖の館に命を与えるのは女優の演技

次は、The Guardianが載せた評価です。

実は、幽霊現象に現実的な形を与えているのは、それに関与している(生きた)人間です。例えば、ポルターガイスト現象が起きる家庭には、多くの場合、思春期の女の子がいるとの報告も有るのです。

つまり、人がいない空間では心霊現象は起きない訳で、ホラー映画の中でも幽霊を幽霊たらしめているのは、それを体験している登場人物の方なのだと言えます。

そんな角度で考えると、特に本作のようなゴシック調の怪奇映画においては、出演している俳優の能力も大きな要素となるはず。その点について、下の様な批評が書かれていたりします。

【The Guardian】

Ruth Wilson shines in mournful ghost story

「悲哀に満ちたゴーストストーリーで、ルース・ウィルソンの演技が光る。」

The Little Stranger is fluently made and really well acted, particularly by Ruth Wilson, though maybe a bit too constrained by period-movie prestige to be properly scary.

「本作“The Little Stranger”は、流れ良く作られた映画で本当に良い演技も見られる作品だ。特にそれはルース・ウィルソンに寄るものであり、時代もの映画の威光の下で、恐怖を描写しきるには堅苦しくなり過ぎているとは言っても、それは変わらない。」

Abrahamson shows how the awful tensions and rigidities of the English class system create the right atmosphere of denial – they incubate the horror. A stratum of society that holds on to the past is ripe for haunting.

「レニー・アブラハムソン監督はここで、イギリスの階級制度が持つとても強い緊張感と堅苦しさが、どれ程の拒絶感を生み出し恐怖につながるかという事を、我々に示している。過去に固執している社会的な1つの階層は、すでに祟りと言っても良い存在になっているのだ。」

Wilson’s Caroline is the beating heart of the film and she is superb, not least in a scene at a local dance, where she is thrilled to recognise a female friend from wartime and dances extravagantly with her – to Faraday’s chagrin – hinting at a sexual identity she has concealed from everyone, especially herself. And all the time, the sinister presence in the house grows, like mould on the walls. An elegant, sinister tale of the uncanny, with its own streak of pathos.

「ルース・ウィルソン演じるキャロラインは、この映画にとって鼓動するハートの役割であり、その存在は格別だ。特に、地域の舞踏会で戦時中からの女友達を見つけた事に心を躍らせながら、目立つように彼女とダンスする(そしてファラデー医師を嫉妬させる)様子は、周囲の人々だけでなく自身に対しても隠し続けている、性的アイデンティティーを匂わしたりする。そんな中でも、壁に広がるシミ同様、彼女の住む家を取り巻く不吉な影は膨らみ続ける。本作は、独自のペーソスをもって作られた、エレガントかつ不穏な超常現象の物語である。」

評価3:ニュアンスと両義性が活かされた演出

最後は、The Washington Postからの評価です。

恐怖映画の趣きやムードといったものは、結局、そこで描かれる悲劇に何等かの意味が与えられているからこそ生まれてくるものです。

それが上手くできた時に、ホラー映画は人の脳を心地よく刺激します。

同時に、オカルトや超常現象には一意的な回答など無いもの。だからこそ、ホラー映画を観た人間の思考の中に、その印象が何時までも残り続けるのだとも言えます。

こちらでは、本作のインテリジェントな部分について評価が書かれています。

【The Washington Post】

The director of ‘Room’ is back with another movie you won’t be able to shake

「“Room”の監督が、意識から振り払う事も出来ない程の新作と共に帰ってきた。」

At first glance, “The Little Stranger” seems to have been shaped by the same cookie cutter used for countless haunted-house films before it. But director Lenny Abrahamson is far more ambitious than that.

「この映画“The Little Stranger”を一見しただけでは、以前に作られた数えきれない程の幽霊屋敷もの映画と、おなじクッキーカッターを用いて切り出された一篇のように思われるだろう。しかし、監督であるレニー・アブラハムソンは、そういったものより遥かに野心的なものを作り上げた。」

At the heart of “The Little Stranger” is its ghost story, of sorts, one whose horror sequences build toward a sense of cautious inevitability, with the methodical pace of a figure wandering a dimly lit hallway. These moments are more creepy than gory or intense, and what makes them effective is their ambiguity. There are always two explanations for what we have seen: one scientific (typically offered by Faraday) and another suggestive of something more supernatural.

「本作“The Little Stranger”の中心に有るものは、暗い灯りで照らされた廊下をうろつく影を形式どおりのペースで見せて行きながら、慎重に運命へと近づく感覚をホラー描写の中で構築して行くと言う、1つのゴーストストーリーではある。それらの瞬間は、血生臭さや強烈さより、薄気味悪さが目立つもので、同時に、そこに存在する両義性によって効果を高められている。そこでは見せられる事の解釈が常に2通り用意され、1つは(典型的にはファラデー医師が示す)科学的なもの、も1つは、もっと超自然的なもの、という捉え方が両立するのだ。」

Focus Features, it would seem, does not have the faith in “Little Stranger” that the film deserves, releasing it the end of August, a traditional dumping ground for genre films. But this slow-burn thriller — whose power lies in its dark, elusive nature — delivers few genuine scares, and more mannered, nuanced dialogue than answers.

「フォーカス・フィーチャーズには、この映画“The Little Stranger”へ彼らが本来寄せるべき信頼が足らなかった様に見受けられ、彼らは、特定ファンのための映画の廃棄場とも言える8月の最後に本作を公開した。しかし、この(そのパワーが、本質的にダークで捉えどころのない部分に立脚する)、ゆっくり盛り上がるスリラー映画は、いくつかだけの恐怖描写と、さらに気取っていながら、結論を与えるよりずっとニュアンスに富んだ会話などを、我々に与えてくれる一本である。」

ゴシックならではの魅力を期待したい一作

既に死んでしまった過去の時代は、何故か魅力的に見えるものです。

70年も前を舞台にしたこの映画で描かれる、20世紀後半の世界が加速を始める丁度その入り口に立った、イングランドの古い名家エアーズ家の悲劇は、ノスタルジー好きの人の興味も十分に引くものでしょう。

同時に、過剰に文学的だったり哲学的だったりせず、現代のホラー映画ファンにも十分訴求する作風となっているのが、この『The Little Stranger』の様です。

まぁ、大々的に日本の市場へ売り込める一作ではなさそうですが、丁度良いところを見つけて上映できなくもないだろう、そんな気がする一作がこれ。

心霊・オカルト・ゴシックの好きな方には、乞うご期待といった所ですね。

それではまたっ!

参照元
The New York Times
The Guardian
The Washington Post

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