イラク戦争の陰謀と戦う記者達を描く:映画「Shock and Awe」の評価とは?

開戦前夜、ホワイトハウスでは何が行われていたのか?

アメリカ政府が、イラク攻撃ありきの政策を推し進める中、その主張に疑問を呈したジャーナリスト達の活躍を描くドラマ、映画「Shock and Awe」の評価をご紹介します。

この映画が扱う9.11同時多発テロ後のアメリカは、内面で処理しきれない程の怒りや悲しみを抱えていたはずです。張り裂けそうなその怒りの矛先は、政治家の発言など、ちょっとしたきっかけで向かいやすい方向へ一機に流れていったと思います。

この映画『Shock and Awe』は、9.11後のアメリカ政府が、イラクへの軍事侵攻を正当化するために民衆へ流した情報のウソを暴こうと奮闘した、正義のジャーナリスト達を追うものです。

Shock and Awe、ブッシュ政権のイラク戦争とは?

3,000人に及ぶ犠牲者を出した、2001年9月のN.Y.同時多発テロ。

その犯人であるアルカイダを支援しているという理由で、アメリカと他数カ国(有志連合)の軍隊が、この年の10月にアフガニスタン空爆を決行しています。

アメリカ側の圧倒的な軍事力もあってか、この時の戦闘は2ヵ月程で終結。テロに対する実質的な報復行動はいったん完了していました。

ところが、翌年くらいから、時のブッシュ政権の対テロリズム姿勢が拡大します。イラクなど複数の国をテロ国家と位置付け攻撃すべきだ、という口調に変わってきたのです。

その時のブッシュ大統領(および側近)の最大の主張は、イラクが、湾岸戦争停戦時に禁止されたはずの大量破壊兵器を製造・保持している、という内容でした。そして、この開戦理由そのものが虚偽であったと、後に判明してしまうのです。

開戦前の早い段階から、その事実を掴んで報道しようとしていた数人のジャーナリスト達の活躍を、個性派俳優を集めてドラマ化した本作について、アメリカ公開直後にメディアが載せた評価は、どの様なものでしょうか。

予告編と作品基本情報

  • タイトル:
    • Shock and Awe
    • ショック・アンド・オウ
  • ジャンル:
    • ドラマ / 実話 / 政治
  • 制作:
    • 2018年
    • Acacia Filmed Entertainment
    • Castle Rock Entertainment
    • Savvy Media Holdings
  • 日本公開:
    • 未定
  • 監督:
    • ロブ・ライナー
  • 脚本:
    • ジョーイ・ハートストーン
  • 制作:
    • クリストファー・H・ワーナー
    • トニー・パーカー
    • アラステア・バーリンガム
    • パトリック・デペターズ
    • ロン・リンチ…他
  • 出演:
    • ウディ・ハレルソン
    • トミー・リー・ジョーンズ
    • ジェームズ・マースデン
    • ロブ・ライナー
    • ジェシカ・ビール
    • ミラ・ジョヴォヴィッチ
    • ルーク・テニー…他

あらすじ

周囲の人々の携帯が一斉に鳴り始めたのは、丁度、ニュース配信会社ナイト・リダーの記者であるジョナサン・ランデイ(ウディ・ハレルソン)が、従軍取材のためのトレーニングを受けている最中の事でした。

時は、2001年9月11日。ニューヨークで大変な事が起きている・・・

アメリカ反映の象徴とも言える、ワールドトレードセンターの2つのビルが崩落する姿が全世界へ配信されたのは、そのほんの数時間後の事です。

ナイト・リダー社は、米国全土32のメディアへニュースを配信する大手報道機関。ジョナサンと相棒のウォーレン・ストロベル(ジェームズ・マースデン)は、この事件の続報を追う様、上司のジョン・ウォルコット(ロブ・ライナー)により命じられます。

時間の経過と供に、このテロ事件を起こしたのが反米国際テロ組織アルカイダである、と断定されました。そして米国の報復行動の矛先は、アルカイダをバックアップしていると言われるアフガニスタンへ向けられたのです。

しかし、ジョナサンとウォーレンは、この頃から少し変わった情報を入手し始めます。時のブッシュ政権は、アフガンだけでなくイラクへの侵攻も計画しているというのです。

その理由として挙げられたは、イラクのフセイン政権がアルカイダを支援している、というだけではありません。米国諜報部は、イラクが今、大量破壊兵器の量産を開始しているという情報を掴んだというのです。

それは本当なのか?、この件をさらに深く追いかけたジョナサン達は、しかし、ホワイトハウス筋の複数の人間から信じがたい情報を得ます。イラクの大量破壊兵器に関する情報はでっちあげだ・・・

何と、ブッシュ大統領、チェイニー副大統領、そしてラムズフェルド国防長官達は、イラク攻撃ありきの政策を策定していて、大量破壊兵器はそれを正当化するためのウソだったのです。

この事実を掴んだジョナサンとウォーレン、そして彼らのサポートについた伝説のジャーナリスト、ジョー・ギャロウェイ(トミー・リー・ジョーンズ)ら3人は、合衆国中のメディアにニュースを配信しようとしますが、国中がテロへの戦争へ突き進んでいる中では、それを実際に報じようとする会社は有りませんでした。

それでも、自分らには真実を世に伝える責務が有る。

気鋭のジャーナリスト3人による、政府の陰謀を暴く戦いが展開して行きます・・・

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映画『Shock and Awe』:気になる現地メディアの評価は?

過去における誰かの行動や判断の問題点を、結果が分かった今になって非難するのはたやすい事です。

そして、その問題追求が多くの映画ファンの感情を昂らせると見込めるのなら、作品化するための製作費も、それなりに集まる事でしょう。

とは言うものの、扱うテーマが史実に基づいていれば、ストーリーとしての脚色は制限される事になりますし、商業映画として成功させるのは、事実とドラマ性を両側にのせた天秤を、うまく釣り合わさせる必要もあります。

そんな映画の1つである『Shock and Awe』。未だに地政学的にも大きな意味を持ち続ける、あのイラク戦争の裏側にあった事実を露わにする本作についての評価を見て行きましょう。

評価1:真実のジャーナリズムを描く難しさ

先ずは、The Washington Postがこの映画に与えた評価から。

リアルストーリーである事とドラマ化するプロセスの間で起きる、すり合わせの難しさなどを論評しています。

【The Washington Post】

It’s hard to make journalism entertaining on-screen. Rob Reiner’s latest drama tries — and fails

「ロブ・ライナーの取り組みは失敗、ジャーナリズムを娯楽的に描く映画は難しい」

Working from a talky, formulaic script by Joey Hartstone (writer of Reiner’s terrific “LBJ,” in which Harrelson delivered a vivid portrayal of Lyndon Johnson), the director tries to infuse “Shock and Awe” with the taut procedural drama of “All the President’s Men,” “Spotlight” or “The Post.” But he winds up demonstrating just how difficult it is to make shoe-leather journalism entertaining, much less artful. “Shock and Awe” delivers loads of information that viewers may feel they already know

「(ウディ・ハレルソンがリンドン・ジョンソン役で際立つ演技を披露した、ライナー監督の傑作“LBJ”の脚本家でもある)ジョーイ・ハートストーンによる、おしゃべりで型どおりの脚本を基に、監督のロブ・ライナーは緊張感の有るプロセスを本作“Shock and Awe”へ満たそうと努力している。そして“大統領の陰謀”、“スポットライト 世紀のスクープ”、そして“ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書”の域へと近づけようとする。とは言え、今回、彼が辿り着いたものは、レザーの靴を履きならすジャーナリスト達を娯楽的に描く事が、いかに難しいかを証明するだけの、巧みとも言い切れない仕上げりの作品だ。この“Shock and Awe”は、観る者が既に知っていると感じる、そんな情報で埋め尽くされた映画である。」

評価2:時代の流れにさからった記者達

次は、SFGateの評価です。

こちらでは、大きくて、まだ生生しい歴史上の出来事を描く事の意義などを書いた批評となっています。

【SFGate】

In real-life story ‘Shock and Awe,’ the reporters find out the truth, but no one is interested

「実話ベースのストーリー“Shock and Awe”では、レポーター達が真相をつきとめるも耳を貸す者は一人も居ない」

“Shock and Awe” has the feeling of yesterday’s news about it, because it is about yesterday’s news — or what should have been the news. It delves into what might have turned out to be a great journalism story but is instead a journalistic footnote

「“Shock and Awe”には、昨日の出来事を伝えるニュースの様なフィーリングが有る。何故なら、これ自体がそう遠くない過去のニュース、もしくはニュースになるべきであった出来事を描く作品だからである。本作は、偉大な報道となるべきだった記事が、結局は脚注程度にしか扱われなかったという出来事の内部へ、深掘りをして行くものである。」

It reminds us that journalism is essential, but also fragile. Sometimes journalists tell the truth, and no one is interested. Sometimes everybody is looking in the wrong direction.

「この映画は、ジャーナリズムは基本的に重要であり、同時に脆弱であるという事を、我々に思い出させる。ジャーナリストが真実を述べたとしても、誰も関心を払わない時があり、そんな時は、全ての人間が間違った方向だけを見ているという事である。」

評価3:不足気味のキャラクター構築

続いては、Varietyが載せた本作への評価です。

映画として通用するドラマ性が、どの位上手く構築されているかについての論評です。

【Variety】

Rob Reiner’s well-meaning drama about journalistic integrity prior to the Iraq War is a little too cozy for its punchy politics.

「政治性を語るにはやや耳触りが良過ぎる、イラク戦争前夜にジャーナリスト達が見せた誠実さを称賛する、ロブ・ライナーのドラマ作品」

The shock feels less than shocking and the awe less than awesome in Rob Reiner’s righteously motivated but clunkily executed exposé of media manipulation in the run-up to the Iraq War

「そのショック(shock)は衝撃的という程でもなく、畏怖(awe)の念はやや力に欠ける。それが、ロブ・ライナーが、イラク戦争に突入する時期のメディア操作を世に晒すという正義感を動機としつつも、やや不器用に制作したこの一作である。」

Romantic subplots, exposition-heavy conversations and underdeveloped secondary characters further contribute to a remove that’s at odds with the still-raw recent history the film tracks.

「ロマンスについての伏線や、いかにもと言った言い回し、そして中途半端に書かれた二次的キャラクター達は、この映画が追いかけようとする、まだ生々しさの残る最近の史実との間にある不調和感を、ますます強めてしまう。」

The underdog story’s momentum is throttled down, though, by the cursory check-ins with Adam’s backstory, and the budding romance between Strobel with his neighbor Lisa,

「雑に扱われるアダム・グリーンのバックストーリーや、ウォーレン・ストロベルと彼の隣人リサとの間に芽生える恋愛などにより、負け組を応援する物語の力も長続きはしないのである。」

記憶を掘り起こす事の意味

残念ながら、人間が「喉元過ぎれば熱さを忘れる」のは真実です。

当事者でもない限り、どんなに大きな悲劇のニュースでも、半年も経てば人は話題にもしなくなります。さらには、どんどん雑で間違った解釈を加えながら歴史に埋もれさせて行くのです。

人は、教訓からのみ学ぶ事ができ、それにより向上したり成長したりするもの。過去の悲惨な出来事を風化させない様に、多くの人が取っつきやすい形で史実を振り返ってくれるのが、社会派映画の1つの役割でもあります。

ロブ・ライナー監督による本作『Shock and Awe』が、そんな意思を持って作られた映画である事は、確かだと思います。

そんな一作。日本でも、良い邦題を付けられて公開されると良いですね。

それではまたっ!

参照元
The Washington Post
SFGate
Variety

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