傷を抱えた父娘の奇異なストーリー:映画「Leave No Trace」の評価とは?

〔広告〕

予告編と作品基本情報

  • タイトル:
    • Leave No Trace
    • リーヴ・ノー・トレース
  • ジャンル:
    • ドラマ
  • 制作:
    • 2018年
    • Bron Studios
    • First Look Media
    • Harrison Productions
  • 日本公開:
    • 未定

ベン・フォスターがPTSDの帰還兵を演じる『Leave No Trace』

深い心の傷は、時に、とても非常識な行動を人間に取らせるものです。そして、いつの時代もそんな悪い影響を残すのは、あなたが過去に受けたトラウマの記憶です。

今回ご紹介する映画『Leave No Trace』は、実力派俳優ベン・フォスターが、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の影響を受け、世の中のシステムから外れてしまった男性を演じている作品。

彼は、おそらくどこかの戦場で酷い体験をした人物。とは言えこのストーリーでは、アルコール、ドラッグ、うつ、そして銃の乱射など、PTSDを扱う話の定番要素に頼るものでもない様です。

むしろこの男性、標準レベルと比べても、自分の娘の養育に対する責任感はかなり強い、そんな父親でもあるのです。

そのストーリーの原作、実は、オレゴン州ポートランドで実際に起きた事件をモチーフに書かれた小説『My Abandonment』が使われています。

森林公園に4年間暮らした父娘

この映画のモチーフとなった出来事。その発端は、2004年の4月28日に一組のオーストラリア人夫婦が、ポートランド郊外にあるフォレストパークという自然公園で、10代の女の子を連れた歩く男性を目撃した所からはじまります。

この謎の男が子供を連れていた事から、犯罪の可能性を感じた目撃者夫妻は、地元警察へと通報しました。

そして、通報者の男性に案内された警官隊が深い森で発見したのが、他人に見つかりにくい様に巧みに作り上げられた、誰かのキャンプサイトだったのです。

みつかったその場所。テントの下には、寝袋やいくつかのツール、そして聖書やエンサイクロペディアの1セットなどが有りました。さらには、テントの横に小さな畑まで整備されていたのです。

キャンプには問題の男性は居ませんでしたが、捜索を続けた警官隊が、少し離れた地点でついに彼を補足します。

この男性の名前はフランクといい、53歳の元海兵隊員なと名乗り、供に居る女の子は自分の娘でルースという名だと言いました。

話を聞けば、2人は、この森の中で4年に亘り生活を続けていたとの事。フランクの現金収入は、月に400ドル程度の障碍者手当です。

様々な虐待や犯罪を疑った当局は、ルースの健康状態を調べますが、完全に健康体である事が分かります。なんと彼女には虫歯の1本すら無かったのです。更には、父親から良く教育を受けていた彼女は、同じ年ごろ並かそれ以上の会話能力を見せました。

何年か前オレゴンにやってきた時、フランクは無一文であり、そのままホームレスとなって娘を街角の悪い環境にさらすより、世の中から外れて森林での引き込もり生活を選んだのだとの事。

それ以来彼らは、ほぼ誰からも気づかれる事なく、森のなかでひっそりと生活をつづけていたのです。

映画『Leave No Trace』:あらすじ

アメリカ合衆国オレゴン州ポートランド。その街に有る、巨大な自然を取り込んだ公共公園フォレストパークで、1人の父親ウィル(ベン・フォスター)と、13歳になる実の娘トム(トーマサイン・マッケンジー)が暮らしていました。

2人が寝起きするテントは、森林の中に巧妙に隠され、その下には軍で使用するようなサバイバル装備の数々が並んでいます。

ウィルは、娘を連れて時折街へ出ます。退役軍人のための病院で、モルヒネ系鎮痛剤を処方してもらうためです。ただ、彼はそれを使用する事なく、すぐに街の闇マーケットで売りさばきます。

こうして手に入れた現金により、生きてゆくために最低限購入しなければならない物資を手に入れているのです。

そう、ウィルはPTSDで苦しむ退役軍人の一人。

彼は、一般の社会に居るべき場所を見失い、娘のトムを連れてこの公園に引きこもったのでした。

しかし、彼らの便利ではないながらも静かな生活に、突如、突風が吹き込みます。彼らの姿が目撃され、その通報を聞き出動した当局の捜索隊に発見されてしまったのです。

一時は危険人物かと疑われたウィルですが、結局、市のケースワーカーの判断により、市内の農場へ住む場所と仕事が与えられ、トムと共に住み込む事となりました。

しばらくは、その生活に適応しようとしていたウィルですが、日常の何気ない刺激が彼のフラッシュバックを引き起こします。彼の苦しみは未だに続いている様子。

そして、周囲の警戒心が解かれたある夜、ウィルはトムに荷物をまとめさせ、ふたたび逃亡の旅へと出てしまいます。

ただ、トムにしてみれば、父の事を思いやる気持ちと同時に、今や、普通の世の中と接したい気持ちが大きく膨らんでいるのです。

はたしてウィルは、愛娘をいつまでこの様な状況に置くつもりなのでしょうか?

これまで常に行動を供にしてきた2人に、だんだんと別離の予感が近づいています・・・

キャスト&スタッフ

  • 監督:
    • デブラ・グラニック
  • 脚本:
    • デブラ・グラニック
    • アン・ローゼリーニ
  • 制作:
    • マイケル・ブルーム
    • アニー・マーター
    • デール・ウェルズ
    • アーロン・L・ギルバート
    • ジェイソン・クロス
  • 出演:
    • ベン・フォスター
    • トーマサイン・マッケンジー
    • マイケル・ドライパー
    • ダナ・ミリキャン
    • ジェフ・コーバー
    • ピーター・シンプソン
    • アイザイア・ストーン…他

〔広告〕

映画『Leave No Trace』:気になる海外メディアの評価は?

最近では、ドラマや映画の良い題材として使われるPTSD。

どんな酷い事件も、一定の時間が経過すれば収益という形で昇華させてくれるのは、ハリウッドの良い部分でもあるでしょう。

とは言え、戦場から帰還した兵士の心の問題は、依然として重いものでもあります。

実際には、2008年くらいまでアメリカで行われた統計的調査で、イラクおよびアフガニスタンから帰還した軍人の内、PTSDか抑うつ(もしくは両方)を発症したと認められた人の割合は2割程度だ、との報告が出ている様です。

これを人数にすると、30万人を超える元軍人が、帰国後に心の調子を崩し、通常の生活を送れなくなってしまった事になります。

彼ら彼女らの痛みは計り知れない程で、時には自殺や銃の乱射などの行為に走ってしまうケースも見られます。

そんな深刻な問題を取り入れつつ、そこに独特な角度から現代社会を見つめなおすのが、この『Leave No Trace』と言えるでしょう。

批評1:抑制の効いた知的な描写が光る

ともかく、奇異と言えばそうだけれども、実際に起きた出来事を扱っているこの脚本。

ドラマ化するにあたっては、安易な描写手法がいくらでも考えられたと思います。とは言え、方々の批評記事を見てみると、その様な陳腐で軽いものにはなっておらず、しっかり映画としてまとまった一本である、そんな印象が伝わってきます。

そんな評価として、先ず下の様なものが書かれていました。

【The Guardian】

deeply intelligent story of love and survival in the wild

「大自然でのサバイバルと愛について、深く知的に語るストーリー」

Debra Granik is the exceptional film-maker who directed Winter’s Bone in 2010, launching the career of Jennifer Lawrence, and now she returns with this deeply intelligent, complex, finely tuned and observed movie, adapted by Granik and her screenwriting partner, Anne Rosellini, from the novel My Abandonment by Peter Rock.

「デブラ・グラニックは、2010年の“ウィンターズ・ボーン”でジェニファー・ローレンスを世に送り出した、非凡な映画監督である。その彼女が再び世に問うのは、深く知的で複雑、かつ、しっかりした目線により調律を取ったこの映画である。これは、グラニックが、ピーター・ロックの小説“My Abandonment”を基に、アン・ローゼリーニと共同で脚色したものだ。」

The personae of Will and Tom are strikingly restrained, both in their conception and performance: there is an attractive humility and restraint at work, a quietism. No scenery-chewing, no fireworks, no obvious scary-Colonel-Kurtz stuff from Will or obvious teen rebellion histrionics from Tom.

「(父)ウィルと(娘)トムに与えられた人格は、その設定上も演技の上でも、驚くほど抑制が効いたものとなっている。そこには、魅力として捉えるべき控えめさと抑制が、静寂主義の中で表現されて行くのだ。ウィルは、大げさな振舞や、派手な火花を見せる事も、(地獄の黙示録の)カーツ大佐の様な威圧感を露骨に示す事も無い。そしてトムの方も、10代の反抗期に有りがちな物言いを、ただ披露する訳でもないのだ。」

A split is coming. But Granik manages this crisis with cool, unhammy clarity. The intimacy and love between Will and Tom is presented with real delicacy. It’s a movie that will live with me for a long time.

「(そんな父娘にも)別れの時がやって来る。しかし、グラニック監督は(2人にとっての)この危機を、クールな中にわざとらしさを配しつつ明瞭に表現している。ウィルとトムの間にある親密さと愛情は、真の繊細さをもってここに描写されて行くのだ。本作は、私にとっても長く心に残る、そんな映画と言えるだろう。」

批評2:監督デブラ・グラニックが斬新な背景に素晴らしい演技を引き出す

オレゴンの森林に潜んでいた実際の男性は、白髪に髭を蓄えていたと言われています。従って、ここでのベン・フォスターは、それよりやや若い印象かもしれません。

それでも、このウィルの様に心の危うさを持つ男性が、はまり役と言っても悪くないのがフォスターです。映画としての見栄えと描写力、その両方のバランスを与えているのは、やはりAクラス俳優の存在感によるのでしょう。

そういった演技と、そして演出についての評価としては、以下の様なものも書かれています。

【Los Angeles Times】

‘Leave No Trace’ is a reminder that the movie world is better with Debra Granik in it

「デブラ・グラニックが、映画の世界をより良くすると思い出させる一作、“Leave No Trace”」

“Leave No Trace” leaves its traces everywhere: in your mind, in your heart, in your soul.Fiercely involving in a way we’re not used to, made with sensitivity and honesty by director/co-writer Debra Granik, it tells its emotional story of a father and daughter living dangerously off the grid in a way that is unnerving and uncompromising yet completely satisfying.

「本作“Leave No Trace”は、あなたの記憶やハートそして魂の中などあらゆる場所に、その痕跡を残す映画だろう。脚本を共同執筆した監督のデブラ・グラニックにより、感受性と正直さを込められて、この見慣れない作風へ非常な力で引き込む様に書かれたのが本作だ。それは、世の中から逸脱しながらギリギリで生きている父親と娘の心の物語を、緊張感の中に妥協の余地を廃して、かつ完璧に満足の行く手法で描写するものだ。」

As a teenager full of curiosity for the world, Tom is more open than she expects to be to experiencing new things, to give new plans and places a chance. Preternaturally poised with a pre-Raphaelite presence joined to palpable strength, actress McKenzie conveys all this quiet assurance with a minimum of fuss.

「世界への好奇心で満ちたティーンエイジャーとして、トムは、新たな経験を積む事や、新しい計画や場所に触れる事に関し、よりオープンな姿勢を持っている。はっきりとした強さが有るラファエル前派の絵画を思わせる容姿の中に、超自然的とも言える落ち着きを秘め、この女優トーマサイン・マッケンジーは、必要な(内面の)確信を最低限の演技だけにより、すべて描写してみせる。」

Foster, memorable in a string of roles including “3:10 to Yuma,” “Lone Survivor,” “The Messenger” and “Hostiles,” is an actor who always brings a sense of edgy uncertainty and menace with him, and he makes strong use of it here.

「“3時10分、決断のとき”、“ローン・サバイバー”、“メッセンジャー”、そして“Hostiles”など、一連の作品群で印象が強いベン・フォスター。彼は、不安な腹立たしさや危なさを、常に作品へと提供してきた。そして今回も、その才能を大いに発揮したと言えるだろう。」

批評3:社会への問いかけと10代の成長を包み込むストーリー

オレゴン州の、湿っていてちょっと冷たい印象も、1つのキャラクターになっているだろう、そんな風に見えるのが本作です。

そういった環境が、主演の2人の存在感に安定感や落ち着きを与えていて、結果的に各方面の良い評価につながったのかも知れません。

そんな『Leave No Trace』について、下の様な批評が与えられている事を最後にお伝えしておきます。

【Chicago Tribune】

A triumph of place and character, from ‘Winter’s Bone’ director Debra Granik

「“ウィンターズ・ボーン”製作者デブラ・グラニックが、場所とキャラクターを活かしきった作品」

“The same thing that’s wrong with you,” she tells Will firmly, “isn’t wrong with me.” That tension underscores and heightens everything in “Leave No Trace,” which questions the very meaning of home and homelessness, connection and solitude. On another level, it’s a coming-of-age tale that uses Tom’s unwillingness to assimilate Will’s dysfunction as a metaphor, albeit an extreme one, for the separation that comes with growing up.

「“パパがだめだと言うのと同じモノが”、彼女(トム)は(父ウィル)に断固とした口調で言う、“私にとっては問題ないものなの”。このテンションが、この映画“Leave No Trace”の全てを強調していると言える。本作は、家を持つ事と住む場所の無い事、繋がりと孤独さなど、それぞれの真の意味に疑問を投げかけるストーリーである。そして同時に別のレベルでは、ウィルの機能不全性に付き合う事に対し、トムが感じる抵抗感を1つの比喩とした少女の成長の物語でもある。この様に非常識な状況下であっても、成長と供に離別はやって来るものなのだ。」

Foster and McKenzie are almost symbiotic here, with the young actress, a native of New Zealand, delivering a startlingly confident performance that is, by every measure, the equal of Foster’s.

「この映画の中、ベン・フォスターとトーマサイン・マッケンジーは、まさに共生状態にある様に感じさせる。驚くべき自信を持った演技を見せるこのニュージーランド生まれの若い女優が、あらゆる意味においてもフォスターと対等の存在であるからだ。

普通と特殊の境界線

現代人は、すべからく、周囲が自分に期待している人間像を満たそうと、無意識に演技をしながら生活をしています。

その生き方が、自分にとって得になっていれば何の問題も有りません。ですが時に、そういう人生がどうしても耐えられないし続けられない、と言う人も出てきます。

そして、要領良く社会生活が出来ない人の事を、やる気がないとか、無能とか、ぼぅーっとしているとか、もっと酷い場合は病んでいると断じてしまうのが、今の世の中です。

でも、個人の生き方に普遍的な正解なんてありません。

本人と周囲に著しく害を及ぼしている場合を除き、メインストリームに追従しない誰かの生き方を許容する姿勢も、現代社会には必要な事だと思います。

多くの人が豊かさを共有している社会から逸脱しながらも、責任を持って娘を育てようとした一人の父親を描く、この『Leave No Trace』。

自分や世の中について、また新たな角度から考えさせてくれる、興味深い一本だとは言えそうですね。

それではまたっ!

参照元
The Guardian
Los Angeles Times
Chicago Tribune

〔広告〕

Author: ズレ太

いろんな事がズレまくってるズレ太です。 でも、意外とまじめですよっ! (記事の中で引用している映画批評は、米国の電子版メディアから抽出しての大意翻訳です。)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。