格差と偏見そして恋愛コメディ:映画「The Big Sick」について

〔独特なタッチで語る格差社会の異文化恋愛模様〕

格差社会の問題が世界中でブームになった切っ掛けは、米国で始まった、例の「オキュパイ・ムーブメント」だった気がします。

まぁあれは、「世の中の富の4割だか5割だかを、全人口の1%が握ってるのはズルい、、、」というアジテーション運動です。同じものが、日本でも少しは行われたかもしれません。でも、アメリカの場合は世界から移民を受け入れ続けて、彼らが活躍できるようにそれなりな「自由」を用意しているでしょうから、日本人が観ている格差社会とは、また違う風合いがあるのかも。

例えば「Uber」みたいなビジネスを発展させられるのも、自由を縛る法的規制が少ないからでしょう。

この映画、映画「The Big Sick」の主役である、パキスタン系アメリカ人の男性、クメイル(クメイル・ナンジアニ)も、シカゴの街のウーバードライバーとして、なんとか生計を立ている一人。

しかし、彼にはしっかりとした目標と夢があります。それは、スタンドアップコメディアンとして成功する事。実際、お客を前にステージに立って、笑いの腕前を磨き続けているんです。

彼の家族は、パキスタンの保守的な文化を守る人々。だから、クメイルをパキスタン系の女性と結婚させようとしています。クメイルは、そんな家族の気持ちをくみつつも、外で自分好みの女性を見つけてはデートを重ねたりしています。

そんな彼に、人生を変える出会いが訪れたのは、とある日のライブの後。そこで知り合った女性、エミリー(ゾーイ・カザン)と意気投合したのです。2人は、すぐに深い関係になりました。

一度はうまく行きそうに見えた2人の仲。でも、クメイルが自分の事を家族に話せずにいると知ったエミリーは深く傷ついてしまい、彼の下を去ろうとします。そして、事態はもっと深刻な方向へ向かいました。

なんとエミリーが突然入院、意識さえない昏睡状態へ陥ったのです。

もちろん、エミリーが心配でたまらないクメイルですが、同時に、彼女の家族へこの事を連絡するという、難しい仕事も降りかかってきます。

一報を受け、シカゴへと駆けつけたエミリーの両親(ホリー・ハンター、レイ・ロマーノ)が、娘と親しそうにしているイスラム教徒らしき男性に、いぶかしげな視線を投げた事は、言うまでもないでしょう。

果たして、エミリーの意識は回復するのでしょうか? もし、そうなったとしても、2人の関係について、双方の家族を納得させる事など、クメイルに出来るのでしょうか?

〔実は、これも本当にあった話、その評判は?〕

大昔から、ラブストーリーには、お家柄の格差などの、ある一定の障害が用意されているもんです。

それが、21世紀の現代だと、異文化間のギャップや軋轢、テロへの恐れ、あるいは人種についての偏見という要素に切り替わるのでしょうね。そんな物語の中であっても、ここでのクメイル・ナンジアニは、ソフトな仕草にユーモアをかかさない、ナイスな男性として頑張っています。

2001年に同時多発テロがあった直後は、ハリウッドでも幾多の作品が公開を自粛したり、場合によるとシーンの差し替えを迫られたりしましたが、この映画では、テロリズムを逆手にとったジョークとして消化しているようです。

そんな風な作品に、それなりの予算が確保できる(制作はジャド・アパトー)というのも、ある意味うれしい現象と言うべきでしょう。

「一組の男女が、世紀をまたいで継続する異文化間の軋轢、そして現代的恋愛のいざこざや大病さえも克服し、最終的に一緒になるとすれば素晴らしい出来事と言えよう。そして、その2人が、自分達のその物語を素晴らしい映画にまとめ上げたとすれば、これはもう奇跡と言って良い。そしてそれが、この映画『The Big Sick』を光らせているポイントとなっている。本作は、この夏の映画の中でも、最高と呼べるロマンティックコメディーなのだ。」(SFGate)」

場合によるとトゲが出過ぎるネタを、独特のゆるさで表現するところは、ナンジアニという人の持つ不思議なセンスを感じさせる部分かも知れません。

ちなみに、基本的にこのストーリーは、クメイルと奥さんであるエミリー・ゴードンの間にあった実際のエピソードだそうですよ。

「コメディアンであるクメイル・ナンジアニを筆頭に、この映画が持つ独特の雰囲気こそ活気とウィットの源である。そして、アメリカ製のロマンティック・コメディにも、未だに、それなりの力と可能性が有る事を証明した部分でもあるのだ。そんなナンジアニは、本作の中でテロリストをネタにした軽いタッチのジョークを飛ばしたりする。とは言え、カジュアルな表現によるそれらは、かえって観客の不意を衝くという効果も出している。(The New York Times)」

見た所、良い評価ばかりが目に付く本作。その理由には、その映画としての安定した作りも挙げられるようです。

「本作『The Big Sick』が素晴らしく、また効果的であるポイントの一つは、クメールとエミリーを取り巻く人間模様の構築の仕方であろう。クメールのお見合い相手も含めて、わき役達は一人としてただのパロディーに終わらない。それらはコメディーの中へ埋め込まれているとは言え、デリケートなバランス感覚をもって描き出されており、この映画の絶妙な点である。(SFGate)」

とか、

「監督のマイケル・ショウアルターは、映像のスタイリストという訳ではないが、俳優を動かす技に長けていて、さらに、マイナーなキャラクター達であっても、映画の飾りではなく生きている人々であると、ちゃんと理解している人物だ。そして、脚本を共同執筆したナンジアニと彼の妻エミリーの2人は、消滅しそうな古いシナリオに現代の男女を上手く書き込んで、愛と死、そして21世紀を生きるアメリカ人の日常にあるコメディーとして、みごとに生き返らせたと言えよう。(The New York Times)」

、などと書かれています。

〔ユーモアこそが問題解決の鍵〕

社会的な立場の格差が生み出す問題を、笑いとロマンスで薄めて、意図的に見えづらくしていると、この映画を批判する事も可能なのでしょう。

でも、ヒトが創造性を発揮するときには、ある程度のユーモアが心の中に必ず必要です。たとえネットにだって、他人や何かを攻撃するような文言ばかり書いていると、時間も発想力も無駄にするばかりです。

逆に、ちょっと難しい問題をうまく表現して、そこにコメディを成り立たせるのは、やはり、センスが求められる作業です(まぁ、誹謗中傷に比べてお金になるか、と言えば、微妙な所かも・・・)。

そんな意味からも、独特な立ち位置を確保したと思しきこの映画には、また特別な存在感もありそうに思います。

今のところ、日本での公開は予定がないので、これもDVDダイレクトリリースですかねぇ、、、まぁ、それでも問題ないんでしょうね(ただ、一人で観るのは寂しい感じですね)。

それではまたっ!

参照元
SFGate
The New York Times

ズレ太

Author: ズレ太

いろんな事がズレまくってるズレ太です。 でも、意外とまじめですよっ! (記事の中で引用している映画批評は、米国の電子版メディアから抽出しての大意翻訳です。)

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