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予告編と作品基本情報
- タイトル:
- The Man Who Invented Christmas
- 制作:
- 2017年 Mazur / Kaplan Company …他
今や数十億人に愛される、1人の作家のクリスマス寓話
あらためて思うと、聖書の中に「12月25日は主の生誕された日であるので、世界中の信徒はこれを心して祝せよ」とか、「主の生誕日は、電球の色と数で競い合い盛大に祝意を表せよ」、なんて一言も書かれていない訳です。
それでも、この季節が醸し出すウキウキするようなムードには、僕ら日本人は完全にやられてしまっていて、一年の中でも最も消費が活発になる次期を演出する、重要なアイテムにもなっています。
そして依然として、あの赤と緑と白の色彩に、キラキラの電飾、あきらかにそれと分かるメロディーラインの数々は、聖書の時代のずっと後に生きたどこかの誰かが考え付いた、一つの様式であるに違いないのです。
どの様なトラディションも、人類発生の瞬間から存在した訳じゃないですからね・・・
まぁ、イデオロギーの問題はともかくとして、他者への思いやりとか、いたわり、そして施しの精神という、クリスマスを定義づけるメインテーマでさえ、それを明確にしたのは、結局のところ1人の人物らしいのです。
その人こそ、英国ビクトリア朝時代に活躍した著名な小説家である、チャールズ・ディケンズであり、現代に通じるクリスマスの基本イメージを固める事になったのが、彼の代表的一作「クリスマス・キャロル」なのだ、というのが、今回ご紹介する映画「The Man Who Invented Christmas」のコンセプトです。
19世紀という、ともすると堅苦しい時代を舞台にしながらも、ディケンズがこのおとぎ話を生み出すまでの過程は、ファンタジックかつユーモラス、そしてポップに描かれているというのが、この作品の特徴らしいです。
あらすじ
1843年の秋。イギリスでは一人の作家が自身のはかどらない創作に苦悩していました。
彼の名は、チャールズ・ディケンズ(ダン・スティーヴンス)。
彼の名を世に知らしめたデビュー作の後、最近出版したいくつかの小説も結局は鳴かず飛ばずとなり、彼に対する世間や編集者達の評判も落ち気味。ただの一発屋だったと思われてしまったらおしまい、そんな強いプレッシャーに、今のチャールズはさらされているのです。
そんなスランプの中、チャールズの脳裏には、子供の頃に彼の家族を苦しめた無責任な父親(ジョナサン・プライス)の事などがよぎるのみ。
この年、彼は、クリスマス向けの物語を出版したいと考えています。とは言え、編集者の間では、いまさら斬新なクリスマス小説など生まれる余地はない、と言った見方が強い様です。
ですが、妻のキャサリン(モーフィド・クラーク)の事を思っても、今年のクリスマスには何か一発決めないといけません。そして、周囲の人間には何ら問題はないと強気な事を言うチャールズでしたが、気が付けば季節はもう秋、10月に差し掛かっており、実際のところは大ピンチです。
しかし、人間、頭を捻れば何か出てくるもの、と言うより、眠っていたチャールズの才能がやっと発動したと申しましょうか、彼の中で何かが固まり始めました。
友人でありマネージャーでもあるジョン(ジャスティン・エドワーズ)とのやり取りや、家政婦達の行動、そして不気味な墓守の老人などの印象が、チャールズを1つの物語へと導き始めます。
そのストーリーとは、クリスマスの前後に、主人公の下をスピリチュアルな何かの存在が訪問するという、ファンタジックな内容。まぁ、奇抜と言えばそうですが、彼の中ではビビッと来ている様子です。
そしてついに、その瞬間が訪れます。物語の主人公として、強欲で偏屈な老人を考え出し、それにエベネーザ・スクルージ(クリストファー・プラマー)という変な名前を与えた瞬間、チャールズの脳裏にはその老人がありありと浮かびあがり、まるで今、自分の目前に立っているかのように感じられ始めたではありませんか。
しかも、他の登場人物達もイメージが決定すると同時に、ありありと思い描く事ができ、更には、彼ら自身が、小説内でどう行動したいのかを語り始めるのです。
その言葉を受け、チャールズは猛然と小説を仕上げにかかりました。時には、頭脳がフル回転の時に家政婦に書斎のドアを開けられたりして、猛烈なフラストレーションを募らせつつも・・・
キャスト&スタッフ
- 監督:
- バハラット・ナルルーリ
- 脚本:
- スーザン・コイン
- 制作:
- ミッチェル・カプラン
- アンドリュー・カプラン
- ロリー・メイ
- ポーラ・メーザー
- ロバート・ミッケルソン…他
- 出演:
- ダン・スティーヴンス
- クリストファー・プラマー
- マイルズ・ジャップ
- モーフィド・クラーク
- ジョナサン・プライス
- ガー・ライアン
- イアン・マクナイス…他
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「キャロル」誕生のドラマ、に関するいくつかの評論
クリスマスと映画の存在意味
特定のシーズン向け映画は、基本的に同じテンプレートを用いた作り替え作品、といった風情に陥る事が多いでしょう。
特に、世の中全体がムードを盛り上げようと頑張るクリスマスというのは、リリースする映画の種類も限定されがちです。
その中の代表的な物語が、ディケンズの一作である訳ですが、逆を言うと、この作家自身がとてつもないクリエーターだった訳で、その作品群が一本調子の扱われ方しかしないのも、その才能に対する一つの冒涜なのかもしれませんね。
とにかく、この時期向けの映画という角度からは、
「クリスマス映画というのは、人々が集う事の感覚を上手く利用して作られるものだ。それは、1940とか50年代に良く見られる印象で、その時代こそ映画史上でも一番良いクリスマス映画が作られた時代だと言える。そしてそれは、殆どのメジャー映画がスーパーヒーローを登場させるという、自画自賛に満ちた現代と比べた時、明確なコントラストをなしているだろう。そんな中、この映画『The Man Who Invented Christmas』は、ただの良い映画というだけではなく、一つの救いとなっている作品である。もし、あなたが、上質な雰囲気のクリスマスを求めているのであれば、この映画がそれを与えてくれるはずだ。『クリスマスキャロル』が執筆されるまでを語るこの映画は、クラシカルなムードを、新たなアングルを用いて再び我々に体験させるという一作になっている。(SFGate)」
、という、かなり肯定的で興味をそそる評価が書かれています。
そして、クリストファー・プラマーが、かなりな力を込めて、偏屈な老人スクルージの幻を表現する部分でさえも、この映画の中のユーモアと愛らしさに繋がっているでしょう。
そんな風に、ビクトリア朝時代を振り返る設定だからこそ、描けたファンタジーも多かっただろう本作には、さらに、
「脚本のスーザン・コインは、レス・スタンディフォードのノンフィクション本を原作に、ドラマ要素を重ね合わすようにしてこのストーリーを描いている。そこでは、ディケンズがその名前を発想した直後、エベネーザ・スクルージが実際に姿を表したりする。さらに加えては、『クリスマスキャロル』に登場する台詞を、何人かのキャラクターに実際に語らせるという工夫も見せているのだ。本作『The Man Who Invented Christmas』は、ディケンズが小説に込めた、許し、寛容、寛大、ほどこし、そして家族への想いなどを、大いに盛り込む作風となっている。我々も、そういった礼節や善意を信じるべきだと語りながら、それを促がしてくれるのが本作である。(SFGate)」
、といった批評が書かれています。
あきらかに、クリスマス向けに用意された一本
もちろん、チャールズ・ディケンズの愛読者を標榜する熱烈ファンもいるはずで、ともすれば、彼の人生や功績を茶化していると解釈されかねない映画は、それだけでリスクも背負っています。
おそらく、ディケンズの存在を、19世紀の大作家という神格化された領域から、もうちょっと人間界の方に引き下げるというのが、この映画の主旨だと思うのですが、
「この映画『The Man Who Invented Christmas』には、年末年始のムードを暖める作品になる可能性があったのだが、結局、この時期を当て込んだテレビドラマに、すこし良い役者を揃え、魔法的な設定をお約束の出来事で飾ると言う程度の作品になったのみであろう。我々が事の結果を知っている以上、ディケンズの創作過程に、さほどのサスペンスを新たに盛り込む事が難しいのは明らかである。更に言えば、この作家の頭に過去のフラッシュバックがひらめいたり、物乞いをしていた父親との関係を振り返ったりさせたのは、鼻につく結果となったと言わざるを得ない。(CNN)
、という事で、あまり心にしっくりこなかった人もいらっしゃいますね。
映画でなくとも、斬新と捉えられるか、奇をてらった一発と解釈されるかは紙一重ではありますが、本作の作りについては、
「実際の所、この映画が最も感動的なのは、ディケンズのこの小説が175年もの間、いかに読まれ続けてきたかを明らかにする、エンディングまでのゆっくりとした展開である。そして、この題材が故に、本作は年末年始のテレビ放送用として、これから長い事使い続けられる事だろう。スクルージのようなビジネスマンなら、その前の(劇場での)出費は必要ないと言うだろうし、従って現実に本作も、劇場に立ち寄るのを思い留まらせるに充分な一本である。(CNN)
、などと、冷めた批評もされているようです。
ディケンズの実像と創作活動
ゴーストの出没とクリスマスの物語を融合させる作家が、19世紀のイギリスに居たとすれば、彼(もしくは彼女)は、明らかに一人の天才だと言えるでしょう。
それでも、ディケンズがその文章を完成させるプロセスでは、諸事情や雑音に悩まさつつ、そんな中にアイディアを見出していたはずだというのが、この映画を面白くする最大のポイントだと思います。
そんな事を描く本作については、最後に、
「『恋におちたシェイクスピア』などと同様に、この映画『The Man Who Invented Christmas』もまた、ノンフィクションを原作として作られ、そこに、小説家は実はドキュメンタリー作家なのである、というアイディアを裏書きとして加えたものだ。ダン・スティーヴンスによる、影響力と活力のみなぎる演技によって、光と安定感を与えられつつも、バハラット・ナルルーリの演出による本作は、子供より親達向けに作られたホリデー向けのスペシャルテレビドラマ、といった風情に出来上がっている。(The New York Times)」
、という評価が与えられている事をご紹介しておきます。
クリスマスの良いムードに浸りつつ
クリスマスの時期であれば、スクルージ級の偏屈老人でさえ人間性に目覚めたり、寂しい人生を生きているイケメンの青年が人気アイドルと恋に落ちたりといったような、素敵な奇跡が起こり得るように思えます。
しかし、元々、イエスキリストが生まれた日でも何でもない日である12月25日には、そんなスーパーパワーが備わっている訳ではないのです。
しかしのしかし、現存する伝統が故に、この日を出来るだけ良い日にしようと世界中の人間が心を清く保つよう努力し、他人にもやさしくして過ごすなら、そこには、普段は起こらない良い事が本当に起こる可能性は大きくなるのです。
一年が終わろうとするこの季節に、それほど多くの人の心を正すクリスマスの伝統を生んだ要因の一つが、ディケンズの生み出した「クリスマスキャロル」。
それはやっぱり、人類の歴史を変えた一本の小説だったのは確かでしょう。
それではまたっ!
参照元
SFGate
CNN
The New York Times
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