映画「レディー・バード(原題)/ Lady Bird」:グレタ・ガーウィグが描く女子高生のリアル

さりげない日々に埋もれたストーリー

人間は、体験から学習する生き物。ですから、人が人生を構築しようとする時、周囲の環境からは計り知れない影響を受ける事になります。

なので、子供がまっすぐに成長してゆくためには、最低限の環境は不可欠。

まず、しっかりとした関心を子供に向けてくれる両親の下に生まれ、校則は厳しくてもちゃんとした教育方針のある学校に入れてもらい、適当に規則をやぶりつつも先生とは敵対する事もなく過ごし、恋をしてその先の事も知り、高校を卒業し希望通りの大学へ入学する。

その人の人生の初期段階で、こういう、とても普通の事柄が連なっていさえすれば、将来的には、一流企業とか芸能界に入ったとしても必要不可欠とされる人材に育ってゆくのでしょう。

ただ、普通の出来事を列挙するストーリーって、映画ビジネスの中では売り物になるのでしょうか?

実は、今回ご紹介する映画「Lady Bird」は、とある女子高生のリアリティをハートフルに描いたという事で、すこぶる評判の良い作品らしいのです。

ここで、自身の出身地であるサクラメントを舞台にしたストーリーを描いたのが、女優のグレタ・ガーウィグで、本作が監督としてのデビュー作ともなっています。

ガーウィグ監督の代わりに、自分も数年間分年齢をさかのぼって高校生になり切り演じているのが、シアーシャ・ローナン。

と言う訳で、女性目線の効いたラブリーな雰囲気は予想できるのですが、そこにどんな出来事が起こるのでしょうかねぇ?

あらすじ

イラク戦争が始まる雰囲気が日増しに強まる2002年。カリフォルニア州はサクラメントの街。

そこに、一人の女子高生が暮らしています。名前は、‘レディー・バード’。

まぁ、この妙な名前は、彼女が自分で勝手に名乗り始めたもので、本名は、クリスティーン・マクファーソン(シアーシャ・ローナン)といいます。

クリスティーンは、おとなしい性格の父親ラリー(トレイシー・レッツ)、精神病棟のナースとして働く母親マリオン(ローリー・メトカーフ)、養子である兄のミゲル(ジョーダン・ロドリゲス)と暮らしていますが、実はカリフォルニアが大嫌いなのです。

だから、高校最後の年を迎えるにあたり彼女が母親に告げたのは、どこか東海岸の大学に通いたいという希望でした。

クリスティーン曰く、「ちゃんと文化がある土地で勉強したいの」、との事。

ですが、わざわざ娘を教会系の女子高に通わせ大事に育てた母マリオンは、そんな事を許すはずありません。クリスティーンは、学校のカウンセラーにも「イエール大に入りたい」と言ってみたのですが、これも一笑に付されてしまいます。

クリスティーンは、年頃なりの頑固さと不安定さを併せ持っています。母親のマリオンとは、延々と口論したかと思えば、一緒に買い物をしたり、同じ音楽で感動したりと、悪くもないけど微妙な関係性。そして、彼女のことを一番理解してくれるのは、親友のジュリー(ビーニー・フェルドスタイン)だけに思えます。

いま、彼女の学校の友人がこぞって勝ち取ろうとしているのは、近く行われるミュージカルの舞台出演権。なぜって、別の男子校の生徒と、同じ舞台で合唱をできるという数少ないチャンスだから。

そして、そんな機会にクリスティーンの目に留まったのが、男子学生のダニー(ルーカス・ヘッジズ)。彼女はひぼ一目ぼれをし、結局2人は付き合い始めます。これがきっかけのように、クリスティーンは、もっと派手な人間関係を求めるようになったようで、最近では、あのジュリーともあまり交流していなさそう。

いまや、クリスティーンの頭の中は、恋愛のこと、学友達に大いに自慢できるだけの大人びた経験をすること、初めてのセックスはいつしたら良いのかということ、そして、母親を説得して、なんとしてもこの街から抜け出すことで一杯の様子。

まぁ、時に冒険してみるのも良いとは思うのですが、年頃の娘の行動についてマリオンの心配もわかりますよねぇ・・・

キャスト&スタッフ

  • 監督:
    • グレタ・ガーウィグ
  • 脚本:
    • グレタ・ガーウィグ
  • 制作:
    • リラ・ヤコブ
    • イーライ・ブッシュ
    • イブリン・オニール
    • スコット・ルーディン
    • ジェイソン・サック…他
  • 出演:
    • シアーシャ・ローナン
    • ローリー・メトカーフ
    • ジョーダン・ロドリゲス
    • トレイシー・レッツ
    • ビーニー・フェルドスタイン…他

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ドラマの中にリアルな生活を再現する一本、その気になる評価は?

映画の制作手法としては、ある程度の粗雑さや安っぽさを許容しつつ、演出をほとんどしないで俳優に自然に語らせるという方法も有ると思います。

キャリアが固まる前の映画監督であれば、そういった個性的作品で玄人の関心を引いて、徐々に仕事を大きくするという作戦も効果的でしょう。

ただ、ここで紹介している「Lady Bird」は、すでに業界で名が売れている女優兼脚本家が作ったという事で、そういうインディーズ系の作品でもあり得ません。

そんな一本については、まず、

「この映画『Lady Bird』に関して言うなら、エンドロールは一つのショックである。そこに流れる名前が、本作が痛々しい現実のリアルを描いたのではなく、精密な手腕により完璧な楽しみとして作り上げられた脚本のあるドラマだと言う、ありがたくもない事実を知らしめるからだ。知的で温かみもある本作『Lady Bird』は、女優にして脚本家であるグレタ・ガーウィグの監督としてのデビュー作であると同時に、もう1人の女優シアーシャ・ローナンが持つ、驚異的な演技力を示す一作となった。ここでガーウィグ監督は、女子高生の卒業年の出来事をエレガントな共感を勝ち取る描写で映し出し、それは、一生分を超える程のティーンエイジャー映画を見てきたと自負している観客にも、共鳴を引き起こし得るだろう。その作品は、ローナンの演技によりかなりの部分が支えられたもので、23歳にして2度のオスカーノミネートに輝いたという彼女が、2002年ごろのサクラメントに住むという10代の女学生になりきっている姿には、ほとんど魔法を見ているような印象を受けるはずである。(Los Angeles Times)」

、と言ったような好意的な見方が書かれています。

現実的なリアリティを再現するために、シナリオやプロダクションデザイン、そして演技と演出を完璧に作り込むというのも、なかなか大変な作業だと思います。

ただ、そうやって書き上げた物語からは、本当の想いみたいなのが自然とあふれ出すのでしょうね。それは、産業脚本家を5~6人雇って作る娯楽大作では、ほぼ起こり得ない現象だと言えます。

その全体の出来具合は、こざかしく売り込まない中に独特な愛らしさを持っているというのが、この一作の魅力のはずですが、別の所には、

「この映画『Lady Bird』は、それが本来値しない賞賛を得ようと挑んでいる映画で、同時に、個性的かつ平和なやりとりを見せ攻撃性も無いこのコメディドラマには、上記の様な評価は不利益となる誤解を生みもするだろう。実際のところ、この作品を見た人々が、それを本当にまじめに愛することになると明言しても過言ではない。もちろん私もそうだったし、もし、年内にもっと強い魔法をもった映画が登場したら、それは驚き以外の何物でもないだろう。その様な愛着は、青春を完璧に描いたなどという評価を超越するものだし、本作が、魔法のようなキャスティンで作られたという重大な事実さえ、超えてゆくものである。おそらくこの脚本は、注意深く巧みに組み立てられ、また煮詰められたもののはずだ、しかし、内容のあるそれぞれのシーンは、(演出や)統制と言うよりそこに存在する関係性から生み出されたものである。今回、演じてはいないガーウィグ監督であるが、彼女のもつ暖かいユーモアや、奇妙な言い回しのセンス、そして記憶力と観察力といったものは、この映画の中心をより魅力的なものに変えているだろう。(Chicago Tribune)」

、と評価されてもいます。

映画にする事を想定したとしても、何人もの脚本家チームが会議のすえに書き上げるシナリオより、実在する1人の人間の内面世界の方が、実はずっと興味深く娯楽的なのかもしれません。

だから、自分の表現を売り物にして生活する作家やアーティストにとっては、人間を描き切ってなおかつ一般の観客から愛される作品を作るのは、究極の目標と成り得るはずです。

そして、そんな角度からの評価も好意的なものが多い、この映画について最後に、

「何かに関心を抱くという事自体が愛情の一形態だ、という考えは、美しいものの見方である。そして多くの意味合いにおいて、本作『Lady Bird』のキーとなるアイディアでもある。もし、あなたがこれに適切な関心を寄せさえすれば、本作はある程度以上の愛着を生み出すだろうし、それを拒むのも困難に思うだろう。(その中心にいる)レディーバードは、自身にのみならず周囲の人々をもある種の困難に引き込む人物だ。それは、彼女が特別に問題あるというより、本人もよく掴めていない自分の個性を主張する事を止めないためである。彼女は、自分を見極めるために、現実と精神性の両面で様々に挑戦してゆく。彼女は、理想主義的であり同時に偽善的で、自己中心的でも寛大で、反抗的でも順応的でもあり、懐疑的なマニアでもある。それは、典型的なアメリカ人の少女だが、しかし(それ故)同時に、矛盾と混乱した衝動をユニークに束ねたような存在として、ここに成り立っているのである。(The New York Times)」

、と言った風な評価も書かれていた事をご紹介しておきます。レディーバードの抗しがたい魅力が伝わるような、そんな印象の意見ですね。

愛らしさは、ただ愛らしく

とてつもなく大きなロマンスも悲劇もない物語が、かえって人々を惹きつける・・・

巨大娯楽ビジネスの世界では、非常識かつ魔法のような出来事です。

それが実現できる作品があるとすれば、結局のところ、普通に周囲の愛着を勝ち取る事ができる普通の率直さこそが、人間(あるいは物語)にとっての最大の財産だという事を物語っているはずです。

十分に品質が良いというだけでは、製品が売れるほど今の世の中は甘くない、なんて、ビジネスコンサルの先生が書いているのを目にしたりしますが、他人を押しのけて一歩前に出て売り込む、という競争姿勢だけが究極の正解でもないと思います。

ただ、本当に好かれるものはただ好かれる。その普通の極意を知っている人は確かに世の中にいて、本当の幸福や承認を手に入れているのでしょうね。

彼らは、自分の事を過度に売り込んだり他人を蹴落としたりせず、それを手に入れているのです。

うらやましい事です・・・

参照元
Los Angeles Times
The New York Times
Chicago Tribune

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ズレ太

Author: ズレ太

いろんな事がズレまくってるズレ太です。 でも、意外とまじめですよっ! (記事の中で引用している映画批評は、米国の電子版メディアから抽出しての大意翻訳です。)

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