マット・デイモン主演ダークコメディ:映画「Suburbicon」の評価

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作品予告編・概要


タイトル:Suburbicon
制作:2017年/Black Bear Pictures(他)

穏健な男の日常が切れる時

世間を騒がすような大騒動を起こした男性を報じるニュースの中で、彼はとても大人しい人だ、なんて周囲の人々が言っているのを見ると、なんとも混乱した気分になる事も多い昨今です。

逮捕された本人の供述が、「ストレスでいらいらしていたからやった」と語っていると伝わると、こちらの方こそイライラさせられる気がします。

とは言え、人は誰も感情を抑圧して生きているものですから、ちょっとの切っ掛けでそれが暴発し狂ったようになるリスクは誰にでもあるのです。だから、「ストレスが原因」というその犯人の発言も、実は人として最も率直な言葉なのかもしれません。

とにかく、見かけ上は平穏な生活も、真の意味で安定していて永遠に安泰という事はありません。あなた自身が壊れずに持ちこたえていたとしても、あなたの人生を崩壊させる事なんて気にもしない輩は、この世界にたくさん居るのです。

さて、不幸にしてそんな悪い奴らの被害にあったひとりが、ガードナー・ロッジ。ここでご紹介する映画「Suburbicon」の題名となっている、新興住宅街にすむ中流階級の男性です。

彼の住む世界は、その犯罪の被害に有った事がきっかけで大きく崩れてしまい、さらには彼自身も壊れてしまったらしいのですが・・・

あらすじ

時は1950年代。所は、アメリカ合衆国のどこか。‘サバービコン’と名付けられた新興住宅街が有りました。

この街の住人は、ニューヨーク、オハイオ、そしてミシシッピの各州から集まり、るつぼのような多様性を実現しているのが彼らの誇りでもあります。

そんな街に最近、新たな、そして、とても斬新なメンバーが加わりました。この街で初めてのアフリカ系アメリカ人家族、メイヤーズ一家(リース・M・バーク、カリマー・ウェストブルック、トニー・エスピノーサ)です。

メイヤーズ一家の登場が、それまで白人だけで上手くやっていたコミュニティに、波風を立たせた事は言うまでもないでしょう。住人の中には、人種差別からくる憎悪をむき出しにするものも現れました。

そんな様にざわつくサバービコンの街でも、メイヤーズ家の隣に暮らすガードナー(マット・デイモン)とローズ(ジュリアン・ムーア)夫妻のロッジ家は、差別的傾向があまりない良い人々です。ガードナーは、息子のニッキー(ノア・ジュプ)が、黒人少年のアンディと野球をする事も奨励している様子。

実はローズは、以前に遭遇した自動車事故の後遺症で、車椅子生活を余儀なくされています。そんな彼女の世話をするため、双子の妹マーガレット(ジュリアン・ムーア)も、一家と同居生活をしています。

とにかく、アフリカ系住民の登場に不安定な雰囲気におちいったこの街で、なんと残虐な事件がもう一つ発生してしまいました。その被害者は、誰あろうロッジ一家。ある夜、3人の強盗が彼らの家に押し入り、家族をクロロホルムで眠らせた上、盗みをはたらいたのです。

さらに悪かったのは、そのクロロホルムの吸い過ぎでローズが死んでしまった事。

これぞ、人生最大の悲劇。そして、傷心の内に葬式を済ませたガードナーが請求した妻の生命保険の査定員から、いろいろ細かすぎるいちゃもんを付けられる段になり、とうとうガードナーの人間性も限界を超えた様です。

はたして彼は、妻の死の復讐を果たすのでしょうか・・・?

キャスト&スタッフ

  • 監督:
    • ジョージ・クルーニー
  • 脚本:
    • ジョエル・コーエン
    • イーサン・コーエン
    • ジョージ・クルーニー
    • グラント・ヘスロヴ
  • 制作:
    • ジョエル・シルバー
    • イーサン・アーウィン
    • バーバラ・A・ホール
    • ジョージ・クルーニー
    • グラント・ヘスロヴ…他
  • 出演:
    • マット・デイモン
    • ジュリアン・ムーア
    • ノア・ジュプ
    • オスカー・アイザック
    • スティーブ・モンロー…他

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最良の家族に降りかかる最悪の悲劇、気になる評価は?

観る者の怒りを刺激し挑発的にして不安定

それは若干危険な趣味なのかも知れませんが、映画の中で、バイオレンスを見る1つの大きな理由は、日常生活の鬱積を晴らすためのカタルシスを得る事です。

普通の社会人として、現実には出来ない破壊的で自滅的な行動を、映像の中で効果的に描いて見せる事で、人々の内面に溜まったものが暴発しないようガス抜きをするというのも、映画の必要悪的な役割と言えるでしょう。

とにかく、この映画の成り立ちを確認するにつけ、観客からのそういった需要を満たすには、ぴったりな一作だと感じさせますが、

「ジョージ・クルーニーが監督を務めたという、この映画『Suburbicon』をホームラン級の一作だと呼ぶことは出来ない。だとしても、これは特定の時代が残した遺物であり、否定しようのない怒りを伴いつつ純粋な洞察力をも刺激してくる一本である。実は、クルーニーと脚本家のグラント・ヘスロヴらが作ろうとしていた、ペンシルベニア州のレビットタウンを舞台にした作品と、クルーニーを主役にし、コーエン兄弟が書き上げていた別の脚本を合体させて出来たのが、この『Suburbicon』である。結果的には、しばしば挑発的な中で不安感を上手く演出し、それでいて、部分部分が完全につなぎ合わされる事もないとう、一本の映画が生まれた。ここでのマット・デイモンは、追い詰められて自滅的爆発物のようなうなりを上げるという、コーエン兄弟作品における典型的人物像を演じている。また、(彼が主人を演じている)ロッジ一家が見せる完璧な友好振りは、隣に住む黒人一家を脅している差別主義者が主張する勝手な美徳と、同じくらいにいかがわしいものだと伝える寓話性からは、クルーニー監督の明晰な鋭さも感じ取れる事だろう。(Washington Post)」

、などと批評されていて、いびつで、ちょっと歪んだ世界観が伝わる印象です。

ジョージ・クルーニーのレンズに映るコーエン兄弟の世界観

ジョージ・クルーニー&マット・デイモン、という名前の列挙なら、日本に持ってきた時は別の訴求力を発揮しそうではあります。とは言え同時に、コーエン兄弟の創作物という事で、そうそう安直な共感を勝ち得るようなものでもなさそうです。

そういう屈折したイメージが、特徴であり魅力でもあるはずの本作には、別の所で、

「愚かものがばからしい決断を下す様子を描く、コーエン兄弟の映画的世界観の中では、『ファーゴ』が一つの知的ポジションを占めているだろう。同時に、本作『Suburbicon』は、その反対側に愛想良くどっかりと腰を下ろした一作だと言える。ただ、ジョージ・クルーニーが監督を務めた、この兄弟からの最新作は、何にしてもやり過ぎてしまっている部分が残念なブラックコメディーになったようだ。この野心的な脚本には持続性が欠けており、そのトーンもまた不安定で長続きしない。その中でも、クルーニー監督が、50年代の落ち着いてレトロな感じと、うわべの情景の下で煮えたぎる憎悪や悪意を対比して見せる手腕は、素晴らしいと言って良いだろう。(USA TODAY)」

、と言う評価も書かれています。

キレれる小市民を演じるマット・デイモン

ノスタルジーを描いて見せるのも、こういった映画の大きな売りとなるポイントで、50年代風のその世界観に適合するために、(かけているメガネの印象を引き算しても)マット・デイモンが行ったと思しき大掛かりな役作りは、作品中のもう一つの見ものになりそうです。

何はともあれ、方々からの関心を強く引くのは間違いなしの本作について、最後に、

「ジョエルとイーサンのコーエン兄弟によって既に書かれていた脚本を、ジョージ・クルーニーと脚本のパートナーであるグラント・ヘスロヴが手を加えて作り上げたという、この『Suburbicon』は、1950年代風アメリカンドリームが抱えていて、いま我々の時代に蘇ろうとしているかもしれない黒い急所を、再び露呈すると言う映画である。本作は、例えばアメリカ人作家のジェームズ・M・ケインや、ピア・ボアローとトマ・ナルスジャックらフランス人作家チームの作風から受けた影響を、クルーニーが映画に表そうとしたものと言える。作品としては、彼らのものに追いついてはいないだろうが、本作にはそれなりの個性的な魅力が見られもする。その中で、マット・デイモンは、このガードナーという役どころの小市民ぶりが足枷となり、見どころも多くは提供しきれていないようだ。一方、犯人の一人を演じるグレン・フレシュラーは心底不気味だし、せんさくが好きな保険査定員を演じるオスカー・アイザックは、笑いを誘うだろう。(Boston Herald)」

、という評価が書かれている事を、ご紹介しておきましょう。

壊れてしまわないために・・・

世間を騒がせる大事件を起こした男性が、実は普段はとても大人しく優しい感じの人だった、という話は、おそらく彼が、自分の内面をぶつけるコミュニケーションの場を、充分に持てなかったのだろうという事を示唆しています。

彼は毎日のように、疎外という小さな被害にあっていて、それに対する反発や怒りが積み重なった挙句に暴発してしまった。だから、本来被害者であったはずの自分が、どうして加害者になったのか分からない、と感じているかもしれません。

そして、色々な意味で歪んでいるのが人間社会ですから、誰しも、同じように自己破滅する危険性は持ち合わせていて、何をきっかけに順調に歩んでいたはずの道を踏み外すかさえ分かりません。

僕らに出来る事と言えば、自分を傷めつけ過ぎずに、慎重に、そして出来るだけリラックスして生活するという事のみ。

自分の身は、他人からの暴力だけでなく、自分自身からも守らねばならないのですから・・・

参照元
Washington Post
USA TODAY
Boston Herald

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ズレ太

Author: ズレ太

いろんな事がズレまくってるズレ太です。 でも、意外とまじめですよっ! (記事の中で引用している映画批評は、米国の電子版メディアから抽出しての大意翻訳です。)

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