映画「All I See Is You」:ブレイク・ライヴリーが夫に縛られる訳とは?

夫婦のチカラ関係が見せる物語

好むと好まざるとに関わらず、僕達は人間関係という空間に拘束されて生きています。そしてそれは、不平等な上下の階級に支配された世界です。

原始の頃は、上に立つ者に権力を集中させて、そこから複数の手下を使ってグループ全体を回す事が、全員を生き延びさせるために必須だったという名残が、今でも生きているのですね。

そして、技術や道具が凄く進歩した21世紀の今になっても、人間のこの性質は変化する兆しも無さそう。結局これは、人間の本質を表しているものかも知れません。

まぁ、角度を変えて見ると、人と人の間に、上下の階級などを持ち込むと、かえって問題が生まれる場合も有る事はあります。たとえば、夫婦の間の関係性がそれ。

一般的に(そして本質的に)1人の男性と1人の女性により構成されるのが夫婦で、お互いが相手にはない機能を担っている訳ですから、合理的に考えても2人が基本的に対等・平等であるべきです。

ですが、必ずしも合理的な正解を求めていないのが、人間という生き物が持つ興味深い性質の一つ。様々なケースがありますが、夫婦という最も近しく濃密な人間関係にも、不条理なシステムが適用された上、一応うまくまとまっている事も少なくないだろうとは思います。

そして、その不条理を見つめようとすると、そこに1つのドラマが生まれます。

例えば、今回ご紹介する映画「All I See Is You」の中でも、今まで機能していた歪(いびつ)な力関係に、新しい局面が生まれている様子です。

それは、この話の中心に居る1人の美しい人妻に、新たなが備わったためらしいのですが、はたして、どんな話なのでしょうか・・・

あらすじ

ジーナ(ブレイク・ライヴリー)とジェームズ(ジェイソン・クラーク)は、バンコクで快適な暮らしをおくっている夫婦。

彼は、生命保険の営業をしていますが、実に献身的に妻の助けを務めています。なぜなら、ずっと前に遭遇した交通事故により、ジーナの視力はほとんど奪われてしまっていたからです。彼女の両親は、その同じ事故で命を落としています。

とにかくジェームズは、異文化の魅力あふれるこの街にジーナを頻繁に連れ出し、そのムードを堪能させたりしてくれます。

それはそれで、安定した生活を送る2人。しかし、その夫婦に大きな転機が訪れました。眼科医のヒューズ(ダニー・ヒューストン)が、角膜移植手術の提案をしてきたのです。なんでも、最先端の医療技術を使えば、片方の目だけは視力を回復できるだろうとの事。

もちろん、手術後は一生、目薬が手放せなくなりますが、視界を取り戻せることに比べれば、なんの問題もありません。

そして、この治療は見事に成功。ジーナは、あの事故後初めて、自分の目で世界を見ることができました。

でも、今まで、ジェームズから言葉で説明されるだけだった世界を見た時、彼女の抱いていたイメージとかなり違う部分もみつかりました。2人の住む家は、思ったよりも色彩に乏しく、一般的な見栄えの部屋。そのアパートの周囲も、話されていた魔法の国のような様子ではありません。

それはさておき、これまでにない大きな自由がジーナの手に入ったのは事実。ということで、彼女は自分の足で周囲の世界を探訪し始めました。彼女は、自分の好みのセクシーなドレスを購入したり、時にはジェームズ以外の男と目線を合わせたりし始めます。

これは、妻にとっての大きな幸せ。しかし、今まで妻を完全な制御下に置いていたジェームズは、その枠からしばしば逸脱する、今の彼女の様子がだんだんと不愉快になってきました。そして、二人の間に、言いしれない緊張感が生まれてきます。

そんな折ジーナは、あの目薬の効果が薄れてきた事に気づくのですが、まさかこれって・・・

キャスト&スタッフ

  • 監督:
    • マーク・フォースター
  • 脚本:
    • マーク・フォースター
    • ショーン・コンウェイ
  • 制作:
    • ロン・パールマン
    • ブライアン・ウィルキンズ
    • レネ・ウォルフ
    • クレイグ・バウムガーテン
    • マーク・フォースター…他
  • 出演:
    • ブレイク・ライヴリー
    • ジェイソン・クラーク
    • アーナ・オライリー
    • ダニー・ヒューストン
    • ウェス・チャタム…他

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一組の夫婦の捻じれた関係性を描くドラマ、気になる評価は?

魅力的な視覚効果を合わせた個性ある一作

人間関係の裏に隠れていた、悪行や病的な特質が表面に露呈した時、その中に居る誰かが必ず犠牲になり、関係性自体も破たんします。

とても大切にしていた関係性が失われるというのは、当事者にとって耐えられない程のストレスでしょうし、それ故、サスペンスフルなストーリーの中でみれば、色付けしやすい題材とも言えるでしょう。

本作も、そんなスポットを狙って、ロマンスとサスペンスの領域にまたがるよう、書き上げられたものだと思いますが、それについて、

「この映画『All I See Is You』の基本設定は、ともすれば、耐えられないほどセンチメンタルに聞こえるものだろう。しかしある意味で幸いな事に、作品そのものは非常に奇妙な作りになっているものだ。本作の監督のマーク・フォースターは、盲目を映像的に体験させる事に夢中になったようで、彼の手により、変容して行く光と色彩、曖昧な形状へ溶け行く姿、カレイドスコープの中に見える砕けた空想のような世界などが、細かい音響デザインとともに映し出されるのは、特別な映像体験となっている。本作『All I See Is You』には、実験的で抽象的、かつ官能的な瞬間がこめられていて、そこで観客は明らかに方向性を無くし、この物語がどこへ向かうのか自問し続けるだろう。そして、そのような感覚は、いわゆるジャンルもの映画としては稀有な体験と言えるものだ。(Los Angeles Times)」

、という評価が書かれています。

不愉快に引き伸ばされる上映時間

この作品は映画ですので、観客のほぼ100%が視覚にハンディキャップを持っていない事が想定できます。それだけに、見る力というのは彼らにとって非常にセンシティブな事柄で、そこに触れるという事は、心の深層的な部分を刺激して緊張させます。

つまりそれは、物語の中、サスペンスムードの出発点になる訳です。

ただ、ドラマとして面白くするために操作的(あるいは搾取的)な演出も必須とは言え、とても繊細な部分に触れると言う事は、逆効果が出るリスクも覚悟しなければいけません。

そんな面では、

「自惚れだけは強くても、見るに堪えない程の失敗作がそうであるように、この「All I See Is You」は、(非常に長たらしく感じる)最初の30分の間、劇場を空にする事ができるという貴重な一作となっている。つぎはぎのようなこのストーリーは、盲目の妻とその夫の間の関係性を追いかけるというもので、監督のマーク・フォースターは、繰り返し彼女の不明瞭な視覚を映して見せるが、それも不愉快な効果をもたらしてしまう。『ロスト・バケーション』では大いに幸運を勝ち得たブレイク・ライヴリーであるが、ここでは、相手のジェイソン・クラークとの間に熱もスパークもなく、内面性も希薄である。(Boston Herald)」

、と、厳しめの評価もみられました。

ありがちなストーリーではなく

作品の語り口調に欠点があるとしても、見方を変えればそれも1つのエッジであり、むしろ、作品の個性として捉える事も可能でしょう。時に、不完全さも魅力と成り得ます。

どちらにしても、夫婦の間の不平等とか、そこに発生する異様な緊張感に立脚したストーリーが、この映画だと思いますので、元から簡単に飲み込める話にはならなさそうです。

さて最後に、そんな本作に対しての少し肯定的な評価を1つ。

「監督と脚本も務めたマーク・フォースターは、この張りつめて、ひねりが効いている上に、セクシュアルで心理的でもあるパズルを作るため、クセがありながらも魅惑的な仕事ぶりを発揮してみせた。冒頭の瞬間から、この映画が通常のストーリーテリングに縛られない事を、観客は理解するだろう。しばしばこの映画は、よりよく演じられた『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』に『ゴーン・ガール』を付け合わせたものとも感じさせる。まぁ、そう簡単に表現するのは言い過ぎかもしれないが、この製作者は、ストーリーの様々な要素を巧みに組み合わせているのも事実だ。そして彼は、見るものを深くダークな領域に置き、むき出しの感情を体験させる事に長けた演出者と言えるだろう。(StarTribune)」

、と言うように、この「All I See Is You」、やはりストレートではない語り口が強い魅力となった、サスペンスフルなドラマ、そんな印象が伝わる映画のようです。

強すぎる愛情は色々と焦がしますが・・・

コントロール狂の夫(あるいは父親)というのも、映画の中でよく見かけるキャラクターです。

彼らは、自分の内面にある愛情を理由に横暴な(時に危険な)振る舞いをし、家庭を崩壊へと追い詰めます。そして、人間関係を縛る原始的な感情である愛情に隠された闇の部分は、観客の心にも刺さりやすい映画的題材だと言えます。

まぁ、人は誰かと依存しあい束縛しあいながら生きているもの。だとしても、これだけ教訓的な物語が多く書かれている以上、力を示す事に躍起になっているのは、結果的に自分の幼稚さをさらけ出しているだけだと、そろそろ多くの人が気付くべきなのでしょう。

それが出来た時、僕らの住む社会にも新しいシステムが作り出せるのかもしれません。

それではまたっ!

参照元
Los Angeles Times
Boston Herald
StarTribune

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ズレ太

Author: ズレ太

いろんな事がズレまくってるズレ太です。 でも、意外とまじめですよっ! (記事の中で引用している映画批評は、米国の電子版メディアから抽出しての大意翻訳です。)

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