大人の自分探しは意味深い:映画「Brad’s Status」について

何も不足はないはずの自分なのに

成人年齢の人の多くは、「いつかは取り組もうと思いながらも20年くらいお蔵入りになってる課題」を、ひとつくらい心の深い所に持っているものです。

人は、何かを手に入れるために何かを手放すもの、だそうですので、現在のあなたの幸福な生活も、遠い昔に諦めてきた何かのおかげで手に入れたと言っても、過言ではないでしょう。

でも、社会的な幸福と心の充足が必ずしも一致しないのが人の常。芸能人や国会議員といった著名人が不倫に走ったりするのは、あきらかに、失ったり諦めてきた何かにより心に開いた穴を塞ごうとするためです。

あるいは、人生についての後悔とか愚痴をこぼして過ごす場合もあるでしょうが、どちらにしても、そういった自滅的な行為は、上手くかかれたドラマのシナリオくらいでしか、満足の行くあがないへ辿り着く事はありません。

さて、今回紹介する映画、「Brad’s Status」の主演の男性は、社会的にも価値のある仕事と文句のつけようのない家族を持ちながら、自分の人生についての心残りが吹っ切れなくて困っているのだそうです。

自慢の息子が大人への扉を開けようとしている今、彼もまた、自身の人生に結論を出す必要を感じているらしいのですが、そこに辿り着くには、やっぱり一連のドラマが必要です・・・

あらすじ

カリフォルニア州サクラメントに住む男性、ブラッド・スローン(ベン・スティラー)は、毎日のように眠れない夜を過ごしています。

とは言え、はた目に見た彼の人生はとても順調。彼の経営するNPOは、他の社会活動団体に資金調達の手段を提供するという、世の中のためになる仕事をしていて運営状態も良好。

彼の奥さん、メラニー(ジェナ・フィッシャー)も立派な公務員であり、美人で、夫の事を常に気遣ってくれています。そして何より、一人息子のトロイ(オースティン・アブラムス)は素晴らしい音楽の才能に恵まれ、そのおかげでイエール大学の入学はほぼ約束されているんです。

それでも、ブラッドは、人生の過去についての後悔を消し去る事ができません。なぜかと言うと、彼の大学時代の友人達の多くが、人気映画監督(マイク・ホワイト)や、ヘッジファンドのマネージャー(ルーク・ウィルソン)、そしてハイテク企業の創業者(ジェマイン・クレメント)、さらにはベストセラー作家(マイケル・シーン)など、仕事で派手な成功を成し遂げて社会的にも名をはせているからです。

そんな彼らの事を思うたび、どうしてもブラッドの劣等感は刺激され、心がふさぎ込んでしまいがち。

そんなある日、トロイが思わぬ事を言い始めます。どうせ入学するなら、イエールよりもハーバードが良いというのです。もちろん、彼にも彼なりの理由があってですが、とは言え、ハーバードは並の秀才でも入学に失敗するエリート大学、さすがのブラッドも反対します。

とは言え、今はトロイの才能にしっかりしたチャンスを用意するのが、親としての第一の役目。と言う事で、ベストの道を探るために、息子を連れて東海岸の大学を見学して周る旅を計画するブラッド。

しかし、息子の進路を確かめる目的のその旅は、ブラッド自身がかつて学んだ大学も訪れ、彼がコンプレックスを感じ続ける旧友たちとも顔をあわせる機会となるもの。

そしてひょっとしたら、彼がこれからの半生をより良く生きるヒントにも成って欲しいところですが、果てして・・・

キャスト&スタッフ

  • 監督:
    • マイク・ホワイト
  • 脚本:
    • マイク・ホワイト
  • 制作:
    • カーラ・ハッケン
    • ジョン・ペノッティ
    • デイビット・バーナード
    • ブラッド・ピット
    • シドニー・キンメル…他
  • 出演:
    • ベン・スティラー
    • ジェナ・フィッシャー
    • オースティン・アブラムス
    • マイク・ホワイト
    • ルーク・ウィルソン
    • ジェマイン・クレメント
    • マイケル・シーン
    • シャジー・ラジャ…他

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ベン・スティラーの不満足な半生、、、その気になる評価は?

心の中で、「あんな事やこんな事、自分がその気になれば何時でも出来るのに」と常に感じていらっしゃる向きも多いでしょう。

しかし一般的に、言うとやるのでは大違い、ではあります。

人生の適切なタイミングで、ある道を真剣に選択しなければ、結局あなたはその世界の住人にはなれないのです。

この映画がベン・スティラーに託したのは、そんな風に逃してしまった、もう一つの自分の世界へ思いをはせるという役割だと思うのですが、その作風について、

「ベン・スティラーが演じる主人公が、息子の夢の実現に立ち会いながら、自身の過去についての後悔を思い起こさせられるという、この映画『Brad’s Status』は、相当湿っぽい映画のように聞こえるかもしれないが、実は真逆である。マイク・ホワイトが脚本の執筆と監督も務めた本作は、中心人物であるブラッドが、未だにつのる社会的大成への切望感と、素敵な家庭を築いた事に抱く自負の間を行き来する中に、デリケートなユーモアを織り込んで行くという作風なのだ。(Washington Post)」

、と、温かみの感じられる評論が書かれています。

少なくとも先進国に暮らす僕らの人生には、ある程度の可能性が必ず与えられている訳ですが、同時にそれは、捨ててしまう選択肢がとても多いという事も意味します。

人として生きてゆく事は、喪失感とともに過ごすのと同義語。まぁ、そういった中にこそ、ドラマなどで描ける人間性の深みなどが生まれてくるのです。

さて、そんな人生を、ちょっとした冗談とともに穏やかに語る、という本作についてさらに、

「本作『Brad’s Status』は、中年以降の抱く不安をはっきりと明示しつつも、同時にそれでも、現実的な問題に集中する事は誰にも可能だと気付かせる物語でもある。ホワイト監督は、そこに現代社会の見せかけや不安などについて、痛烈な批判を浴びせてみせもする。本作は、物語の端々をしっかり結びつける事はしないが、その中でもこの主人公は、過去についての未練と未来に関する不安の両方を、今という確かな港へ導くためのナビゲーションを、手に入れてみせるだろう。(Washington Post)」

、という評価です。また、別のところでも、

「控えめで、それでいて自然体で、実に大人びたドラマティックコメディである、この映画『Brad’s Status』は、理知的な男性が、その知的なエネルギーの殆どを悲観と憂うつのために消費するという物語である。その男性ブラッドを演じるベン・スティラーは、ジョークよりも変な行動で笑わせる趣向の他の出演作では見せない、もろい精神性をここに表現している。この、素晴らしくも挑戦的な演技は、彼のキャリアの中でも最高と呼ぶべきものだ。マイク・ホワイトによる、レーザー光のごとく鋭い演出の下、この映画の見栄えが小型に見える事さえ、デリケートな個人的問題を扱うのに最もふさわしいと感じさせてくれる。この監督と主演のスティラー共々、ブラッドという男性が同情を買う事など意図もせず、ただ、その欠点も含めて人物像そのものを描こうとしているのである。(Star Tribune)」

、などといった、親近感をあたえる論評が多いようですね。

場合によると、ベン・スティラーの名前を見ただけで、ナンセンスなコメディー作品だけをイメージする人も多いでしょう。

そんな風な、彼の存在とこの映画の関連性については、

「ホワイト監督は、このブラッドという男性を、モンスターとしても、また、ダメ人間としても描こうとしていない。そして主演のスティラーは、たとえば『ロスト・イン・トランスレーション』での ビル・マーレイや、『エターナル・サンシャイン』でのジム・キャリーが見せたような、誠実でいて精神的深さを伴う演技的アプローチをしていて、ここでの彼は、まさに観客の代理として存在している。スティラーは、幾多の明るく陽気なドラマに主演してきたが。それでも本作ほどに観客達の感涙を誘い得る作品は、これまで一つも無かったであろう。(Star Tribune)」

、といったような批評記事も書かれています。

人の人生の難しさや、素敵さや、深さについて語ってくれる映画が本作のようで、なんとなく伝わってくる穏やかなバイブスが魅力に感じられます。

隣の芝生より自分の芝生

僕たち小市民は、エンタメ業界のセレブのように、休業宣言をして半年くらい旅行にでるなんて事は不可能ですが、それでも時折立ち止まって、自分の立ち位置を整理するのは大切な事だろうと思います。

どうがんばっても過去は変えられませんが、うまくすると未来には自分の意思を少し反映できるはず。そのためには、自分の現状を率直に受け止めて分析する必要があるんです。

そして後悔の念を教訓へと転換できたら、きっと良い事が一つくらいは起こるのではないでしょうか。

それではまたっ!

参照元
Washington Post
Star Tribune

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ズレ太

Author: ズレ太

いろんな事がズレまくってるズレ太です。 でも、意外とまじめですよっ! (記事の中で引用している映画批評は、米国の電子版メディアから抽出しての大意翻訳です。)

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